日経平均712円安の発火点、金融市場を揺さぶった「フレンチショック」はなぜ起きた?
■ EU離脱に向けた動きはフランスでも加速するか? 最も懸念されるシナリオは、RNから首相が選出された場合に、新政権がEU離脱の是非を問う国民投票を実施する展開である。しかしながら、これは基本的にあり得ない展開だ。そもそも、仮にRNから首相が選出されたとして、ようやく首相を送り込んだばかりのRNが、フランスの混乱につながる選択肢をすぐに取るとは考えにくい。 確かにRNは支持を拡大させるはずだが、それはRNがマクロン大統領に不満を持つ有権者の「受け皿」として機能するためだと考えられる。言い換えれば、そうした有権者のうち、どの程度の有権者がRNに心から賛同しているのか、定かではない。こうした状況で国民投票を実施したとしても、有権者の支持が離れるだけだろう。 なお、現行の憲法上の規定では、大統領のみならず、国民議会にも国民投票を発案する権利が認められている。とはいえ、仮に発案したとしても、憲法院による審議を受けることになる。フランスの混乱につながるような選択肢を憲法院がそう易々と容認することなど、まずあり得ない。 フランスのEU離脱までの距離は、実際は非常に遠いのである。 第2勢力になる見通しの「左派連合」の中にも、極左政党である「不服従のフランス」を率いるジャン=リュック・メランション氏のように、EU離脱に肯定的な論者がいる。しかし左派連合の大勢はEU残留を支持すると見込まれるため、左派から新首相が選出されたとしても、フランスでEU離脱に向けた動きが加速するとは考えにくい。 にもかかわらず、フレンチショックがヨーロッパのみならず、グローバルな株安につながったのはなぜか。
■ フレンチショックがグローバルな株安に波及した理由 投資家の懸念は、フランスのEU離脱よりも、フランスの混迷がEUの混迷につながるリスクにあるのだと考えられる。つまり投資家は、マクロン大統領を中心とするこれまでのEUの運営体制が大きく変化するリスクを意識したのだろう。 2017年5月に就任したマクロン大統領は、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相との間で良好な関係を築き、EUの実質的なリーダーとして辣腕を振るってきた。2019年12月に発足したウルズラ・フォンデアライエン委員長を中心とする欧州委員会の現執行部の在り方にも、マクロン大統領の意向が強く反映されたことは良く知られている。 実際に、欧州委員会の現執行部が描いたグリーン化とデジタル化を両輪とするEUの経済成長戦略は、マクロン大統領の庇護の下で推進されてきた。これまでもマクロン大統領のフランス国内での人気は低かったが、総選挙を経てコアビタシオン政権が成立すれば、マクロン大統領のEUにおける求心力や影響力も低下を余儀なくされる。 もともとグリーン化に関しては、欧州議会選の前から揺り戻しの機運が高まっていた。しかしここにマクロン大統領の求心力の低下が加わることで、その揺り戻しの幅がさらに大きくなる可能性が高まった。 またグリーン化のみならず、様々な領域で政策の揺り戻しが進み、EUの混迷が深まる事態になると、投資家は考えたのではないか。