36歳”激闘王”八重樫がフラフラになって異例のハードトレ公開。4度目世界王座奪還へ「超接近作戦」
プロボクシングのトリプル世界戦(23日、横浜アリーナ)でIBF世界フライ級王者、モルティ・ムザラネ(37、南アフリカ)に挑戦する元3階級制覇王者で同級14位の八重樫東(36、大橋)が10日、横浜市内の大橋ジムで公開練習を行った。異例とも言える1時間半のハードトレを披露したが、これは年齢と共に落ちる感覚をキープするための八重樫流の調整法だ。「勝利がイメージできる」とした大橋秀行会長は「勝ったら4階級制覇へ」と次なるプランまで掲げた。八重樫は対ムザラネ戦略を数パターンを用意しており、被弾覚悟の「超接近戦」が、そのひとつ。プロ15年目の”激闘王”が、史上最年長、4度目の世界王者奪取を狙う。
ふらふらになった異例の公開トレ
どこまで己を追い込むのか。こんな世界戦の公開練習は見たことがない。それほど凄かった。サンドバッグから始まり、パンチングボール、松本トレーナーとのミット打ちを終えると、反復横跳びから心拍数を限界まで上げる「パワーマックス」へ。最後は、自重を使った体幹トレで、ベンチプレス台に足をのせ腕立ての姿勢のまま静止を7分間。全身から汗が滴り落ちて、そこに汗の水たまりができた。まるでスポ根漫画の世界である。その水たまりをモップで掃除した八重樫は、息も絶え絶え、ふらついていた。見守っていた大橋会長が、「やりすぎじゃないか」と心配するほど。 だが、これが「練習は歯磨きみたいなもの」という八重樫流。 「練習をやらないとやらないだけ感覚が落ちる。年齢ですよね。練習量が落ちると、どんどんやれないことが増えてくる。反応、反射などの感覚を取り戻すのに時間がかかる。それって無駄。だから年齢に応じて練習量を落とすのではなく、逆に体を維持するためにやり続けることが大事なんです。休みなどいらない。心拍数を上げて反応を呼び起こすと、感覚が落ちる誤差が少なくなるんです。だからギリギリまで動いたほうがいいんです。完休(完全休養日)も作らない。休んだからといって疲れが取れるわけではない」 10月から世界戦の準備をスタートしたが、ここまで完全休養日は1日もない。 「日曜日は休みだ、なんて1週間単位のスケジュールを作るのもやめました。6日動いて7日目も動けるなら、休みもいらない。1日、1日の積み重ねで曜日の感覚をなくした」 自らの体を実験台に経験を積んできた八重樫流の身を削るような調整方法なのだ。 2017年5月、ミラン・メリンド(フィリピン)に1ラウンドTKO負けを喫してIBF世界ライトフライ級王座から転落して以来、2年7か月ぶりの世界戦。相手は、WBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥(26)の次期対戦候補として話題のWBO世界同級王者、ジョンリル・カシメロ(フィリピン)、元WBO世界同級王者、ゾラニ・テテ(南アフリカ)を倒したことがあり、坂本真宏(六島)、黒田雅之(川崎新田)と2人の日本人挑戦者を蹴散らかしてきた最強王者のムザラネである。 38勝(25KO)2敗のキャリアを持つ37歳のベテラン。 大橋会長は、「当初、八重樫の調子が良くなかったが、スパーを重ねて手ごたえを感じている。自分が見ていて勝てるイメージがわいてきた。ムザラネと八重樫は技術もファイティングスピリットも似ている。八重樫らしい熱い試合ができる」と言う。 「15年コンビを組んできて会話をしなくても阿吽の呼吸がある」と大橋会長が信頼を寄せる八重樫も、こう決意を語った。