36歳”激闘王”八重樫がフラフラになって異例のハードトレ公開。4度目世界王座奪還へ「超接近作戦」
「2年半ぶりなので、いろんなものを忘れている。今、それを取り戻しているが、逆にそれが新鮮。楽しみながら試合を迎えたい。顔は腫れると思うが、顔面で戦うわけじゃない(笑)。被弾するのは、勝ちへの布石。自分らしい戦いができれば突破口が見えてくる。ムザラネネは強敵に間違いない。そういう相手とやれるのはボクサーとして幸せ。タメ(同学年)には負けたくないですけどね」 ムザラネは、老獪で装甲車のような防御が特徴。頭をすぼめて、ガードを固め、腕が長いため、肘を使ったエルボーブロックでボディを防ぐので打つ場所がない。速くて距離の長い左ジャブが武器。一発はないが、坂本、黒田も、コツコツと的確なパンチを浴び続けて顔を腫らしての完敗だった。 「いきなり段取りもなしに突っ込んでもダメ。ちゃんとした布石を打ちつつ、打ち合いにもっていくなり、足を使うなり状況に応じて一番いい選択をしていく。判定まではいくのかなと思っている。12ラウンド全部を使って、いろんなプランを立てている。どれがはまるか、どれがはまらないかわからないが風を感じてやりたい」 八重樫は何パターンも対ムラザネ用の作戦を用意しているが、そのひとつが「超接近戦」だ。 「注意するのは左ジャブ。もし見えづらく左ジャブを被弾するのなら、超接近戦を仕掛ける。黒田がやった接近戦より、さらに、もう1歩、2歩、前へ出て頭から突っ込んでいく。ムザラネの反応を見て、嫌がること、嫌がることをやっていく。あれだけディフェンスで一生懸命守ろうとするのは、打たれ強くない証拠」 5月の黒田とムザラネの試合解説をした八重樫は最前席で王者の戦い方をチェックしていた。ムザラネは、井上尚弥がWBSS決勝で激闘を演じた元5階級制覇王者、ノニト・ドネア(フィリピン)とも11年前に対戦し、6回TKOで負けているが、全盛期のドネアが、サイドからアッパーを使って強引にこじ開けようとしても簡単には崩れなかった。だが、それらの戦いにヒントを得た。 過去の誰よりも、インサイドに入って乱打戦に持ち込む。それで攻守分離型のムザラネのペースを乱せば、弱さをさらけだすのかもしれない。この日の試合を想定したミット打ちでも、八重樫は、松本トレーナーの顎に頭をぶつけるくらいの「超接近戦」を何度か試みて、そのタイミングを確認していた。 八重樫は、過去、サウスポーとの対戦でも、インファイトに活路を見出だしてきた。 「プロ15年、いろんなことを経験してきたことがなによりの財産。それを試合で使わない手はない」。もちろん、八重樫が用意している作戦はこれだけではない。それでも激闘王の名に恥じないスタイルが、4度目の世界ベルト奪取の突破口になるのかもしれない。松本トレーナーも「パンチに力が入ってきた。当たれば倒せる」と太鼓判を押す。