「事実上の死刑廃止国」韓国で起きている「死刑再開論」 制度は維持され確定死刑囚は59人に、世論に押され執行施設を点検?【韓国の死刑・前編】
▽相次ぐ無差別殺人で世論沸騰 韓法相が死刑執行施設の点検を命じたのは、韓国内で無差別殺人などの「通り魔事件」が相次いだことがきっかけだった。 今年7月21日、ソウルで30代の男が通行人を次々と刺し、4人が死傷する通り魔事件が発生した。8月3日には、ソウル郊外の城南(ソンナム)市でも同様の事件が起きて14人が負傷、このうち60代の女性が3日後に死亡している。さらに凶行は続き、8月4日に大田市の高校で男性教員が20代の男に切りつけられ、意識不明となった。 インターネット上では学校や駅を狙った殺害予告が相次ぎ、警察当局は各地に特殊部隊を派遣して警戒に当たるなど、社会全体が物々しい雰囲気に包まれた。凶悪犯罪への不安が高まる中で、頭をもたげてきたのが死刑執行の再開論だった。 ネット上には執行再開を求める書き込みが目立つようになり、南東部の大邱市長を務める保守政治家の重鎮、洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏が「凶悪犯に対しては、死刑を執行すべきだ」と述べるなど、議論は拡大していった。
韓法相は7月26日、国会の法制司法委員会で死刑制度について問われ、執行には「考慮すべき点が多い」として、死刑廃止が加盟条件の欧州連合(EU)との外交関係を考慮し、慎重な考えを示していた。だが、厳罰化を求める世論に押される形で、8月に入って韓法相は死刑執行施設の点検を指示し、さらに柳死刑囚らの移送を行ったと言える。 ▽59人の確定死刑囚と韓国政府の立場 韓国では、金泳三政権末期の1997年12月30日、23人という大量執行をして以来、死刑の執行はなされていない。一方、法的には死刑制度が存在していることから、その後も死刑判決は出され、今年10月現在で59人(軍事裁判で死刑判決が出された4人を含む)の確定死刑囚がいる。 では、韓国政府は死刑制度について、どのような考えを持っているのだろうか。 韓国法務省に書面で質問をしたところ、死刑制度の存廃については「各国の歴史、社会文化的背景、国民的世論などによって国別に事情が異なる」とした上で、「死刑の刑事政策的機能、国民世論や国内外の状況などを総合的に検討し、慎重にアプローチする」との回答だった。