「事実上の死刑廃止国」韓国で起きている「死刑再開論」 制度は維持され確定死刑囚は59人に、世論に押され執行施設を点検?【韓国の死刑・前編】
韓国政府は2020年11月、死刑廃止を念頭に置いた死刑執行を一時中断するよう求める国連決議案に対し、それまでの棄権から賛成へと立場を変えた。 韓国が死刑廃止へ踏み出すのではないか、という見方も出されたが、これについては「(韓国が)事実上の死刑廃止国だという国際社会の認識、決議案に対する賛成国が着実に増加している点などを勘案した」と説明する一方、死刑廃止には「国家の刑罰権に関連する重大な問題」として、慎重な姿勢を示している。 また、柳死刑囚の移送などで実際に執行再開に踏み切る可能性には「韓国は死刑を合憲的に維持しており、いつでも執行できる」との原則論を示した上で、「死刑廃止への社会的議論や国民世論、国際状況を総合的に考慮して判断すべき」としている。 ▽「事実上の死刑廃止国」と金大中元大統領の存在 死刑制度があるにもかかわらず、韓国が死刑執行を25年にわたって行わずにいた背景には、金大中(キム・デジュン)元大統領の存在がある。
韓国死刑廃止運動協議会によると、韓国で1948年から1997年までの間に処刑された死刑囚は902人(軍事裁判による死刑は除く)。うち約4割が政治犯だったとされる。特に、軍事独裁政権を敷いた朴正煕(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領の時代には、民主化運動を弾圧するために死刑制度が使われ、多くの活動家に死刑判決が出された。その中の一人が、金大中氏だった。 特に、朴政権下の1974年に起きた「民青学連事件」と「人民革命党事件」では、1975年に8人が死刑判決を受け、約20時間後という異例の早さで執行された。両事件は2007年に韓国政府が、朴政権による民主化弾圧と認定され、でっち上げだったことが判明している。このように、韓国の死刑制度は、時代ごとの権力者によって、恣意的に運用されてきたと言える。 民主化運動を闘った金大中氏が死刑制度へ批判的な立場を示し、1998年に大統領へ就任してから執行を止めたことは不思議なことではない。