「事実上の死刑廃止国」韓国で起きている「死刑再開論」 制度は維持され確定死刑囚は59人に、世論に押され執行施設を点検?【韓国の死刑・前編】
その後、政権は同じく革新系の廬武鉉(ノ・ムヒョン)氏に引き継がれ、さらに保守系の李明博(イ・ミョンバク)氏、朴槿恵(パク・クネ)氏と続いたが、韓国政府は執行命令を下すことはなかった。 ▽過去にも執行再開検討、EUとの関係懸念で見送り この間、死刑再開の議論がなかったわけではない。10年ぶりの保守政権となった李氏の時代には、凶悪事件の発生を受けて、今回と同様に法相が刑場の点検を指示したことがあった。また、死刑執行のできる収容施設を新たに建設し、死刑囚を1カ所に集めることも計画されたが、立ち消えとなっている。 韓国政府の当局者は「法務省が死刑執行を計画していたが、EUとの経済連携協定への影響などを考慮して外務省が強硬に反対し、見送られた」と打ち明ける。今回、韓法相が執行を再開すればEUとの関係が悪化すると懸念を示したことからも、韓国政府が死刑執行に対する国際的な反応を意識していることがうかがえる。
また、韓国内で注目されているのが、憲法裁判所の判断だ。 2018年に両親を殺害したとして死刑を求刑された男(その後に無期懲役が確定)の同意を得たカトリック系団体が憲法裁に違憲訴訟を起こした。2022年7月に開かれた弁論では、原告側は「死刑制度は人間の最も基本的な権利である生命権を剥奪する」と批判し、誤判が明らかになれば取り返しがつかないとも指摘している。 憲法裁での審理は3度目で、1996年と2010年にはいずれも合憲との判決が出ている。違憲判決を出すには、9人の裁判官のうち6人以上が賛成する必要があるが、違憲と判断した裁判官は1996年が2人だったが、2010年は4人に増えている。 憲法裁が違憲と判断すれば、死刑制度の存廃にも大きな影響を与える。法曹関係者は「今回は違憲判決が出る可能性がある」と話す。 × × × 軍事独裁政権と民主化運動の経験などから、死刑は政治的に敏感な問題として位置付けられてきた。では、韓国社会の受け止めはどうなのだろうか。次の回では、韓国の世論や関係者の声について考えたい。
「金大中大統領の誕生を祝福します」そう言い残して死刑囚は刑場に消えた 死刑賛成の世論が7割の韓国で、死刑廃止は実現するのか【韓国の死刑・後編】