「事実上の死刑廃止国」韓国で起きている「死刑再開論」 制度は維持され確定死刑囚は59人に、世論に押され執行施設を点検?【韓国の死刑・前編】
25年にわたって死刑執行がなく、国際人権団体から「事実上の死刑廃止国」とされている韓国で、死刑再開の議論が起きている。 【グラフ】死刑廃止国・地域と、死刑を執行した国・地域数の推移
無差別殺人などの凶悪犯罪が相次いだことが背景にあるが、実際に再開に踏み切れば、欧州を中心に国際社会から批判を浴びるのは必至となる。一方、韓国の世論調査では、死刑に肯定的な意見が7割を超えており、制度的に死刑が廃止される見通しは立っていない。 韓国での死刑を巡る動きは、死刑制度があり執行を続けている隣国の日本にとって、決して無関係ではない。今年9月、日韓文化交流基金のフェローシップを受け、韓国で死刑を巡る議論を取材した。さまざまな立場からの死刑に対する考えや現状を、2回に分けてレポートする。(共同通信=佐藤大介) ▽連続殺人犯が移送、「死刑執行」の臆測飛び交う 今年9月25日、韓国メディアが一斉に報じたニュースが、多くの人たちの関心を集めた。韓国で2003~04年かけて女性や老人ら21人を相次いで殺害したとして、2005年に死刑が確定した柳永哲(ユ・ヨンチョル)死刑囚の身柄が、収容先の大邱(テグ)刑務所からソウル拘置所に移送されたのだ。
柳死刑囚の事件は当時の韓国社会に大きな衝撃を与え、これをモデルとして2008年に映画「チェイサー」が公開されたほか、最近でもNetflixがオリジナルドキュメンタリー「レインコートキラー」を製作している。 なぜこの時期に、柳死刑囚はソウル拘置所へ移送されたのだろうか。その背景にあるのが、韓東勲(ハン・ドンフン)法相が8月下旬に指示したとされる、死刑執行施設の点検だ。 絞首刑で死刑を執行(軍事裁判では銃殺刑と規定)する韓国では、ソウル拘置所のほか、釜山(プサン)拘置所、大田(テジョン)刑務所、大邱刑務所の4カ所に絞首台があり、それぞれに死刑囚が収容されている。 韓国政府当局者などによると、韓法相の指示で死刑執行施設を点検したところ、実際に使用できるのはソウル拘置所だけだったという。今回、柳死刑囚ともう1人の死刑囚が大邱刑務所からソウル拘置所へ移送されており、法曹関係者からは「死刑執行を前提とした動きではないか」という見解が相次いだ。