『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』アレクサンダー・ペイン監督が語る映画愛あふれる制作過程とは
アカデミー賞を沸かせ、各国でも高評価の話題作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。ヒューマン・コメディの名手で、映画の撮影現場をこよなく愛するアレクサンダー・ペイン監督に、本作の制作秘話を聞いた 【写真】今月見るべき新作映画
ずいぶん前に、パリでアレクサンダー・ペイン監督の撮影現場を見学したことがある。オムニバス映画『パリ、ジュテーム』(2006年)で彼が担当した一編、「14区」の撮影だった。フランスのインディペンデント映画の、さらに短編とあってスタッフも最小限のなか、ときに飄々と、音響機材の台車を押すのを手伝っている姿を見て驚いたものだ。ハリウッドのアカデミー賞受賞者でもこんなに腰が低いのか、と。2004年に彼が監督、共同脚本を手掛けた『サイドウェイ』が翌年のアカデミー賞脚色賞に輝き、ペインの名前が世界に知れわたった頃だった。 今年のアカデミー賞で、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフに助演女優賞をもたらしたペインの新作、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は、彼の人柄が滲み出たようなヒューマン・コメディである。さらに『サイドウェイ』以来の名優ポール・ジアマッティとの、待望の再タッグとなった。チェックのボタンダウン・シャツにコーデュロイのパンタロンというカジュアルな雰囲気で、にこやかにインタビューに応じるペインの横顔から再び、彼の謙虚で温かい人間性が伝わってきた。 アレクサンダー・ペイン(以下、ペイン): ポールとはずっとまた一緒に仕事がしたいと思っていました。もう19年も経ってしまったとは(笑)。彼は素晴らしい俳優であると同時に、一緒に仕事をするのがとても楽しい。本当にユニークだし、尊敬しています。この脚本はポールを念頭に、脚本家のデヴィッド・ヘミングソンに書いてもらいました。数年前にデヴィッドと出会う機会があり、彼も奨学生として本作と同じような学校生活を送った経験があることがわかったためです。もともとわたしは、学校を舞台にしたマルセル・パニョルの『Merlusse』(1935年/日本未公開)というフランス映画が好きで、同じようなアイディアでアメリカを舞台に、ポールを教師役にしたら面白いのではないかと考えていたのです(註:パニョルの映画に登場する恐ろしい形相の教師に因み、ジアマッティは「やぶ睨み感」を出すために、特別仕様のコンタクトレンズを使用した)。それでデヴィッドに長編映画用に執筆してくれるように頼みました。でも現在は、全寮制の男子校はアメリカに存在しないので、1970年という設定にしました。わたしは1970年代の雰囲気も、この時代の映画も大好きなんです。当時10代だったわたしの映画的素養を形作っています。