『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』アレクサンダー・ペイン監督が語る映画愛あふれる制作過程とは
物語は1970年の終わり。ボストン近郊のバートン校では、生徒の大半がクリスマス休暇で家族のもとに帰っていく。そんななか、複雑な家庭事情で学校に居残ることになった生徒アンガス(ドミニク・セッサ)の「子守役」を任命されたのが、独り者でみんなから嫌われている堅物教師ポール(ジアマッティ)。ふたりは、息子をベトナム戦争で亡くしたばかりで自主的に学校に残ることを決めた料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)とともに、クリスマスを迎えることになる。 屈折しているが、本当は愛に飢えているアンガスと、過去のトラウマによりひねくれ者になったポール、さらに悲しみを秘めたメアリーの3人が、思わぬ縁で家族のように寄り添ってクリスマスディナーを食べることから、彼らの心の鎧が少しずつ解かれていく。 ペイン: 最初からクリスマス映画を作ろうと思ったわけでも、ベトナム戦争を入れようと思ったわけでもない。ただキャラクターの設定を考えていくうちにそうなりました。わたしは作品のテーマやメッセージよりも、キャラクターとストーリーに集中するのが好きなのです。テーマは後からついてくる。ただ、自分が生きてきた経験や見てきたものの影響は自然に表れる。よく人から、映画監督をするときはどんな人間になるのか、暴君か、嫌な奴か、などと訊かれるのですが、わたしは映画を作るときに人が変わるということはないと思う。実生活でも映画を撮っているときも、自分はまったく同じ人間です。自分にとって映画とは、人生を描くもの。人生がここにある、それをカメラの前に置きたいと思う。
もっとも、どんな巧い俳優でも、つねに素晴らしいとは限らない。優れた監督は俳優の資質を最大限に引き出せる監督でもあるだろう。ペインは謙遜するが、『ファミリー・ツリー』(2011年)で新しい魅力を見せたジョージ・クルーニーや、カンヌ国際映画祭で男優賞に輝いた、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013年)のブルース・ダーンのように、ペイン映画の俳優たちはことさら輝いて見える。もちろん、本作のジアマッティやランドルフもしかり。とくに今回初めてカメラの前に立ったというアンガス役の新人ドミニク・セッサは驚きだ。まるでこの役を演じるために生まれてきたかのようにのびのびと、個性的な味を発揮しながら、ジアマッティと対峙してみせる。 ペイン: ドミニクはロケ地で使った学校の、実際の生徒でした。彼に出会う前、わたしたちは800人ぐらいオーディションをしたけれど、これだという人がいなかった。彼は演技の勉強をしていたものの、仕事をしたことはなかった。でもカメラの前で驚くほど生き生きとしていた。彼をどう演出したか? いえ、わたしは何もしていない。彼にいくつかの映画を観るようにいっただけ。たとえば『卒業』(1967年)や、ハル・アシュビーの『真夜中の青春』(1970年)と『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』(1971年)と『さらば冬のかもめ』(1973年)、『ペーパームーン』(1973年)など。それも当時の雰囲気をつかんでもらうためで、あとは彼自身の力によるものです。