「ぼくのお日さま」奥山大史監督が語る、日本映画のこれからとは?
第77回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に日本人監督として史上最年少ノミネートされるなど、国内外から注目を集める9月13日公開の映画「ぼくのお日さま」。その北海道凱旋(がいせん)上映会と映像セミナーが8月28日と29日、北海道・札幌で開催され、奥山大史監督が登壇した。3部構成で行われたセミナーの模様を、一部抜粋してリポートする。聞き手は、本作のロケーションコーディネーターを務めたUHBメディア局映像プロデュース室部長の後藤一也氏と、札幌フィルムコミッションの担当職員。
ハンバート ハンバートの曲と池松壮亮さんとの出合いが推進力に
──「ぼくのお日さま」の制作経緯は? 「子どもの頃に習っていたフィギュアスケートの体験をもとに、映画を作りたいなと思いました。でも、思い出を映像にするだけでは、なかなか映画にならない。どうすれば普遍的なテーマになるのか悩んでいた時に、ハンバート ハンバートさん(佐藤良成と佐野遊穂によるデュオ)の曲『ぼくのお日さま』を聞き、悩んでいたプロットがぐっと進みました。でも、まだ何か足りないと思っていた頃、ドキュメンタリー映像の仕事で池松壮亮さんを撮影し、彼の魅力にダイレクトに触れ、『この人に映画に出てほしい』と強く思いました。そこで、少女のコーチ役として新たに役を作り、物語を膨らませていきました」 ──前作「僕はイエス様が嫌い」(2019年)に続き、「ぼくのお日さま」も雪降る町の設定です。監督は東京出身ですが、なぜ雪の町を撮影地に選ぶのでしょうか? 「前回は大学の卒業制作で取り組んだ自主映画で、群馬の撮影予定地に雪が降ってしまい、スケジュールの都合で無理やり撮影したという、実は、偶然の出来事でした。でも、結果的にすごく良かった。雪は“余白”が作りやすい。雪が降ると情報量がぐっと減るので、何を撮りたいかがはっきりしてくるんです。北海道でロケした『ぼくのお日さま』では、前作でできなかった、雪が降ってない同じ景色を撮ることにチャレンジしました。同じ景色の雪の有無を通して、“時間の経過”を描けたら、と。物語終盤では、雪が溶けていき、“ひと冬が経過した”ことも映像で表現しています。テロップやナレーションを使わなくても時間が描けるという点で、雪はとても映画的だと思います」