「ぼくのお日さま」奥山大史監督が語る、日本映画のこれからとは?
「ぐるりのこと」が教えてくれたこと
──そもそも、映画に興味を持ったきっかけは? 「高校生の頃、部活をやめて暇だった時、通学路にTSUTAYAやゲオがあって。最初は新作を借りていたんですけど、だんだん旧作をまとめてレンタルするようになって…『ぐるりのこと』という映画に出合いました。予告で知って借りてみたら、すごく感動して。DVDを返す時、もう一度借りた場所に行ったら、橋口亮輔監督コーナーには5本くらいしかなかった。それで全部見てみたら、どれもすごいいい。『監督で、映画ってこんなに変わるんだ!』と驚きました。『映画作りっていいな、自由なんだろうな』と思わせてくれた、原体験ですね。そこから岩井俊二監督なども見るようになり、どんどんハマっていきました」 ──「ぐるりのこと」はどこに感動したのでしょう。高校生だったのですよね。 「…どこだったんでしょう。当時は言葉にできなかったですが、今言えるのは、圧倒的なリアリティーを感じた。映画のあらすじは、少なくとも高校生だった当時の自分にとって遠い内容なんですけれど、そこに流れている感情が、自分にとってリアルに思えた。それまで見てきた映画、気軽に触れてきた作品たちは、幸せな気持ちにさせてくれたものばかりでした。と同時に、どこか他人事に感じてしまう瞬間もあって。でも、『ぐるりのこと』は、もしかしたら、いつかやってくるかもしれない痛みに、とても寄り添ってくれている気がした。『こういうことがあっても大丈夫。あなたは生きられる』って言ってくれている気がして、勇気づけられました」
誰にでもチャンスがある時代に、さらになってくる
──24年のカンヌ国際映画祭に行かれて、感じたことがあるそうですね。 「今回のカンヌには、僕の作品『ぼくのお日さま』と、監督週間部門に山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』が出品されました。山中監督も僕も20代、同世代で、『新しい世代が来てる!』みたいな形で取り上げてもらったのですが…僕の肌感覚では、『来てる!』というより、『新しい世代が来てる! ように見せたい映画祭』という印象です。要は、是枝裕和、河瀬直美、黒沢清、北野武の“4K”と呼ばれた日本の監督たちから、次の世代、次の世代と探して出てきた、濱口竜介監督と深田晃司監督。では、そろそろ次を…と、映画祭の人たちも、どこか思っている。そういう意味で、僕たち若い世代は有利だともいえます。自戒を込めて言いますけど、頑張って海外映画祭に応募しましょう。最初は記念応募でもいい。多様性が求められる時代、作品、監督、男女、宗教など、映画祭は、とにかく幅広く、なるべく公平に選ぼうとしている。そういう意味では、誰にでもチャンスがある時代に、さらになってくるんじゃないかと思います」 ──海外の心に届く作品づくりについてアドバイスをお願いします。 「僕も賞を獲得したわけではないですし、そもそも映画祭の受賞は、時世や運の要素もある。数多く海外映画祭に行ってないからこそ、フラットに思うのは、『作りたいものを作る』しかないんだろうな、と。作りたいものを本気で真っすぐ作れば、今の社会問題や社会的背景を取り入れなくても、ストーリーの斬新さや目新しさがなくても、すごく小さな物語でも、心を動かすことができれば、選ぶ人はちゃんと選んでくれるはずです」
【公開情報】
映画「ぼくのお日さま」 9月13日全国公開 北国の田舎町に住む、アイスホッケーが苦手な少年。選手の夢を諦め、スケートを教える男。コーチのことが少し気になる少女。小さなスケートリンクを舞台に、三つの心が一つになって、ほどけてゆく──。雪が降り始めてからとけるまでの、淡くて切ない、小さな恋たちの物語。 監督・撮影・脚本・編集/奥山大史 出演/越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、山田真歩、潤浩、池松壮亮
文・撮影/亜璃西社 新目 七恵