気付くまで15年「妻からDVを受けていた」。エスカレートする支配と暴力、絶望の日々 世間体で相談しづらい男性たちのSOS「ベッド脇にムカデの塊」「みそ汁に下剤」―
斉藤さんは山口さんと会ったその日、自宅に着替えだけを取りに帰り、家を出た。3週間、ホテルで生活しただけで、楽になった。「これが日常なんだ」 窓口に相談して、初めて自分がDVを受けていたということに気づいた。1カ月間休職し、少しずつうつ病の薬を減らしていった。 相談窓口の支援を受け、離婚の調停を開始した。元妻は「和解金」を要求してきた。納得はいかない。でもこれで離婚できるなら―。条件をのみ、数年かかって離婚が成立した。 ▽子どもと会えない日々 離婚後、2人の子どもが成人するまで養育費を払い続けたが、一度も会えていない。 別居後に子どもからもらった励ましの手紙を今も持ち歩く。「いつ会えるかは分からない。会った時は手紙を見せて、忘れていないよと伝えたい」 白鳥の森は今後、斉藤さんが子どもたちと再会できるように支援していく方針だ。 2021年、斉藤さんは再婚した。再婚当時は夜中に頻繁にうなされていたが、最近はうなされることは減った。
離婚して数年は、元妻の家がある道を車で通ることも怖かったが、克服した。斉藤さんはこう呼びかける。「世の中には同じような経験をしている人がいて、その中には命を絶ってしまう人もいるかもしれない。男性でも被害を受けることを知ってもらって、一人でも救われてほしい」 ▽「男性の被害は理解されないと思う」 白鳥の森は昨年、支援した20~50代の男性20人に被害アンケートを実施し、その結果をホームページで公開した。団体によると、男性に限定した調査はあまり例がないという。 アンケート結果によると、被害の内容は、物を投げつけられたりする身体的暴力、暴言や説教を受けたり不機嫌な態度を取られたりする精神的暴力、収入没収や通帳を隠されるといった経済的暴力など多岐にわたる。「ゴキブリやムカデの死骸の塊をベッド脇に置かれた」「みそ汁に下剤を入れられた」「通帳や印鑑を隠された」といったものの他、体格差を反映してか「包丁で脅される」という例も多かった。