気付くまで15年「妻からDVを受けていた」。エスカレートする支配と暴力、絶望の日々 世間体で相談しづらい男性たちのSOS「ベッド脇にムカデの塊」「みそ汁に下剤」―
反対に第1子はかわいがった。するとその子は、まだ幼稚園児だった年下のきょうだいがぞんざいに扱われているのを見て、殴るといった暴力をふるい始めた。 ▽給料も管理下 給料は全て管理下に置かれていた。斉藤さんが与えられていたのは月わずか1万円。それも機嫌が悪い時はもらえないこともあった。 あとは銀行から積立金を下ろし、計2万円で昼食代や会社の飲み会費用を含む1カ月の交際費などをまかなう必要があった。朝食は栄養補助食品「カロリーメイト」2本。昼食は抜いた。 会社の飲み会の後に交通費が足りず、自宅まで3時間かけて歩いて帰ったこともあった。 山口さんは家庭内DVの特徴を次のように指摘する。「加害者が家庭内の『法律』を作り、昨日許されたことが今日は禁じられる。被害者は加害者の機嫌が一番の関心事になる」 ある日、仕事が終わり午後7時に帰ると部屋が真っ暗になっていた。子どもたちが「何も食べていない」と訴える。外に連れ出すが、お金を持ち合わせていない。車にあった小銭をかき集め、なんとか食事を取った。
山口さんはこう話す。「女性のDV加害者は夫に経済的に依存し、搾取するケースが多い。一方で自分の方が力が勝る子どもに対しては、身体的暴力を振るい、効果的に使い分けている」 責任が重くなる仕事と負われる家事に、やがて眠れなくなった。心療内科に駆け込み、うつ病と診断された。強い薬を飲むことになり、日中、意識はもうろうとした。手が震えて字が書けなくなった。 病院に「入院させてほしい」と言うと、家族の同意がないとできないと伝えられ、代わりに病院のケースワーカーに紹介されたのが、徳島県内のDV相談窓口だ。結婚から15年がたっていた。 ▽うつ病と診断 当時、相談窓口の職員だった山口さんは斉藤さんと初めて会った時のことを覚えている。「手が震えていて、今にも死んでしまうのではないかと思った」 山口さんは「家を出てみませんか」と提案した。子どものことが心配だったが、この精神状態で子どもを引き取っても育てられない。