円が対ユーロで最安値に接近、円キャリーとECB利下げ観測後退
(ブルームバーグ): 円の対ユーロ相場が過去最安値に迫っている。インフレ率の高止まりを背景に欧州中央銀行(ECB)が利下げに時間をかけるとの観測が強まっており、ユーロに対する円の下落スピードは対ドルを上回る。
5月に入り円は対ユーロで1%以上下落し、4月29日に付けた1999年のユーロ導入後の最安値171円56銭に近づいている。日本銀行は3月に世界で最後のマイナス金利政策を終了させたが、海外との金利差は依然大きく、ECBを含む海外中銀の利下げ時期の後ずれや回数の減少観測が円売り圧力につながっている。
ECBは6月にも利下げを開始すると予想されている。ただ、その後の引き下げペースについて政策委員会メンバーの間で意見が分かれており、投資家は利下げが緩やかものになるとの見方を強めている。英国でも長引くインフレを理由にイングランド銀行(英中銀)が利下げを急がないとの観測が広がり、ポンドが対円で16年ぶり高値を付けた。
円は4月に対ドルで34年ぶりとなる1ドル=160円台まで下落したが、日本の通貨当局による介入リスクがあるため、その後は円安の進行が鈍っている。政府・日銀は4月下旬から5月上旬にかけて円下支えのためにドル売り・円買い介入を実施した可能性が高い。
市場のボラティリティー低下も、低金利の円を借り入れて海外の高利回り資産で運用するキャリートレードを促すことで円を圧迫する。日本の10年国債利回りは12年ぶりの水準まで上昇したが、ドイツの同利回りの方が150ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)以上高い。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、円キャリートレードによる円安圧力の強さに加えて、「ユーロはサービスインフレの高止まり、妥結賃金の再加速、景況感の底打ちが見えてきているというファンダメンタルズの改善がサポートになっている」と指摘する。ECBは6月に利下げを実施する可能性がある一方、7月以降は「これまでの想定よりもペースが遅いのではないかという見方が強まっている」と話す。