ドジャースが強いのは”スター揃い”だからではない!? ”常勝軍団”であり続けられる理由とは…?【コラム】
今季も例年通りの強さを見せているロサンゼルス・ドジャース。米分析サイト『Fangraphs』によるプレーオフ進出確率で90%を下回ったのは不振を極めた4月20日のみであった。大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンなどスター軍団のイメージが強いが、その支配力を影で支えるのが投手育成・向上能力である。今回はその核心に迫る。(文:Eli) 【写真】日本人メジャーリーガー、歴代最高年俸ランキング
”組織力”が力の源…?
過去5年だけを見てもドジャースが復活・開花させた投手は非常に多い。リリーフ投手が多いことからオールスター出場やMVP獲得などの華は少ないが、ドジャースの屋台骨を強固にしてくれる選手たちだ。 この投手改造・育成能力をドジャース専門メディア『Dodgers Nation』のDoug McKain記者は現ドジャース投手コーチ、マーク・プライアーの名前を冠して『Prior Lab(プライアーの研究室)』と呼んでいる。 このような成功の原因を編成本部長のアンドリュー・フリードマン氏は米メディア『ニューヨーク・ポスト』のジョン・ヘイマン氏とジョエル・シャーマン氏のポッドキャスト番組『The Show』で以下のように語っている。 「MLBの全ルールは我々が低レベルのファームシステムを持つように設計されています。ドラフト指名順位は低いし、国際FA契約金は少ない。FA手前の選手を売ることはできないし、逆に買うためのプロスペクトが必要です。そんな中で我々が成功できるのはプロスカウト、アマチュアスカウト、選手育成など様々な部門が足並みを揃え、相互にかかわりあっているからだと思います。誰か達人のような人がすべてを行うのではなく、組織全体として動いているのです。」
常に球界トレンドの”最先端“…?
2022年、ピッチング的には”スイーパーの年”と呼ばれた。これは2020~2021年にかけてスイーパーの投げ方が体系化され、各球団にそのノウハウが広がっていったからだ。大谷翔平をはじめ多くの投手がスイーパーを投げるようになり、その有効性が球界全体で確認された年となった。 これを2021年に始めたのがドジャースとブレイク・トライネンだとされている。トライネンは2018年にオークランド・アスレチックスで68試合に登板し防御率0.78と驚異的な数字をマーク、サイヤング賞投票も獲得した。 ところが、翌年に成績が悪化。2020年にドジャースに加入するも27試合の登板で防御率3.86と微妙な成績で終わった。トライネンは元々フォーシーム/シンカーの速球を主な球種としていたが、これらの効力低下が成績悪化の要因となっていた。そこでドジャースは視点を変え、トライネンのスライダーの改造に取り掛かった。 20年のスライダーは真っすぐ縦に落ちるような変化をしていた。これを2021年に球のグリップを変更し、より横滑りするような変化(スイーパー)をするようにしたところスライダーのパフォーマンスが向上した。 加えてシンカー偏重により課題となっていた左打者対策のためにカッターの割合を3倍にした。これによりトライネンは再度球界随一のリリーフ投手となることができた。 前年からのトライネンの変化量推移をプロットに示した。(左2020年、右2021年) 黄色のスライダーの点の集合が左(グラブ側)にシフトしている。 ドジャースのスイーパー活用はその後も続き、現在ドジャースのクローザーを務めるエヴァン・フィリップスは、スイーパーの割合を大幅に増やしたことで現在の一線級リリーフに成長した。 将来を嘱望されたものの、なかなか才能を活かせていなかったアンドリュー・ヒーニーはドジャースと1年契約を結んだ後、カーブを捨てスイーパーを取り入れることでテキサス・レンジャーズと複数年契約を結ぶまでに成長した。 コロラド・ロッキーズでキャリアの瀬戸際にあったイエンシー・アルモンテはドジャース加入後にシンカー、スイーパーを取り入れリリーフエースになることができた。 このうちアルモンテはマイケル・ブッシュと共にシカゴ・カブスにトレードされ、現在ドジャースのプロスペクトランキングで5位と11位に位置するジャクソン・フェリスとザヒア・ホープをもたらした。 このようにして球界全体の1歩先を歩くことで現在、あるいは将来にわたって成功する投手陣を作り上げるのだ。