ドルトムントがCL決勝進出を果たせた理由。ドイツ国内リーグで苦戦も、欧州の舞台で輝けた“カップ戦仕様”
“二兎追い”を避けて“割り切り”に舵を切った成果
今のドルトムントにはまだそれだけのものがない。残念ながらバイエルンほどの個の力もない。CLとブンデスリーガ優勝を“二兎追い”することはどちらも中途半端になることを意味する。だから堅守速攻への傾向をさらに強くする必要があった。“割り切り”といったほうが適切かもしれない。アウトサイダーの立ち回りで戦いを受け入れたし、納得したし、だからこそ迷わず戦いきることができている。 また、守備を固めつつ狙いを定めてプレスをかけるサッカーにおいては、経験豊富なベテランの読みが何よりの武器となる。ドルトムントにとってはマッツ・フンメルスの経験が最大限に生きる仕様となった。加えて、スピードに難のあるニコ・シュロッターベックが今季ポジショニングと競り合いへのアプローチで大幅な改善が見られたのは、そうした戦い方を徹底した成果でもある。センターバックが安定しているチームは強い。 バイエルンとマンチェスター・ユナイテッドではあまりハマらなかったオーストリア代表MFマルセル・シャビツァーが復調した背景には、こうしたCL仕様のドルトムントのチームスタイルとのかみ合わせがあった。攻守にダイナミックに動き続け、高いボール奪取能力を誇り、スペースへタイミングよく飛び出すことができ、そして極めて精度の高いシュート力を持つ。CLで欠かすことのできない存在になっている一方で、リーグ仕様のドルトムントだと微妙にかみ合わないところもなんだか興味深い。 自身の得意なプレーのみにこだわるのではなく、チームのために戦う姿勢も重要だ。 CL準決勝のパリSGとの2戦では両サイドのアタッカーにジェイドン・サンチョとカリム・アディエミというスピードとドリブルが魅力の2人が起用された。あの激戦を制することができたのは、攻撃だけではなくダッシュで最後尾まで何度も守備に戻るハードワークに励んだ2人の献身があったからこそ。2人ともオフェンスのセンスには抜群のものがある一方で、オフ・ザ・ボールでの立ち振る舞いに物足りなさがあったが、この試合では見違えるように何度も守備へと全力で走り、体を張った守備でチームを救った。ファンもその姿に感銘を受け、アディエミがパリ右サイドバックのアクラフ・ハキミを力強いチャージで吹き飛ばしたときは、スタジアムが大きな歓声に包まれた。彼らの覚醒があったから、ドルトムントはどれだけ追い込まれても最後のところで踏ん張ることができたのだ。 GKグレゴ・コーベルがみんなの献身的なプレーがあったからこそつかんだ勝利だということを強調している。 「PSGは信じられないほど素晴らしいチームで、信じられないほどすごいクオリティを持った選手がいる。コレクティブな守備は絶対条件。カリムとジェイドンも何度も守備に戻ってチームを助け、相手と2対1の状況を作り出し続けた。何度か突破を許して、いいチャンスを作られたけど、幸運もあって僕らは守り切ることができた」