『ライオンの隠れ家』“家族の物語”に相応しい最終回 小森家は誰もが帰ってこられる場所に
突然いなくなってしまった洸人(柳楽優弥)。ゴーグルをかけて気持ちを落ち着かせようとする美路人(坂東龍汰)は、グループホームのプレ体験の夜に小野寺(森優作)から言われた「いつかはみんな一人になる」という言葉を思い出し、自分のせいで洸人が家を出て行ったのではないかと考える。そんな美路人に対して愛生(尾野真千子)は、「そういう時もあるよ」と、昔の自分を思い出しながら語りかけるのである。 【写真】柳楽優弥×坂東龍汰、涙のクランクアップでの抱擁 『ライオンの隠れ家』(TBS系)は12月20日に最終話を迎えた。ドラマの大部分を占めてきたサスペンス的な部分が前回のエピソードでひと段落したこともあり、今回は洸人と美路人――すなわち小森家の兄弟の物語に注力される。家から離れてふらりと東京までやってきた洸人は、自然と中退した大学に足が向く。たまたま工藤(桜井ユキ)から連絡をもらい話を聞いてもらうと、彼女から「やり残したことがあるなら挑戦してみたら」と背中を押される。そして洸人は、もう一度大学に通って学び直したいという決意を固めるのだ。 ASD(自閉スペクトラム症)をもつ弟のために、大学を辞めて人生のすべてを捧げてきた兄。子どもの頃から“優しいお兄ちゃん”でいなくてはいけないというある種の呪縛にとらわれてきた洸人の人生に、これまでとは違う選択肢が生まれたのは、小森家に愛生と愁人(佐藤大空)という新たな家族が加わったことと、愁人との関わり合いを通して美路人自身が変化してきたからに他ならないのであろう。 このチャンスを逃さずに進んでいくべきか、いままでの暮らしを続けるべきか。この葛藤は、誰しもが人生のどこかの節目で味わうものであり、洸人のように障がいを持つ家族を支えながら暮らしてきた人であれば、なおさら大きな選択といえよう。そういった意味では、この一連のストーリーは数年前のアカデミー賞受賞作『コーダ あいのうた』(もちろんそのオリジナルの『エール!』もだが)にも通じている。いずれにせよ、ケアラーとしてあらゆることを諦めてきた人にも選択肢があることを提示することが、このドラマがまぎれもなく“家族の物語”であることを何よりも証明するのである。 ケアラーである主人公を描きつつも、従来のASDの登場人物を扱う作品の多くがしてきたようにASD当事者を記号化したり、物語全体を動かす道具として用いたりしなかったことが、このドラマの肝といえる部分。それゆえここで描かれた“家族”とは、それこそライオンの“プライド”と同義かもしれない。助け合うべきところは助け合い、それぞれが意思を持ち何かを成すことができる独立した存在であり、それを認め合える関係性。それができなかったのが橘祥吾(向井理)であり、そこにたどり着くことができなかったのが柚留木(岡山天音)であったように、登場人物たちは皆、あらゆる部分において表裏一体の関係といえよう。 ウミネコのように自由な個の集合体であり、安全が担保された場所。愛生がすでに二度――一度目は結婚の挨拶のために母・恵美(坂井真紀)に会いにきた時だ――帰ってきたように、洸人も美路人もそれぞれが新たな道へ進んでも、自分の意思でいつでも自由に帰ってこられる。小森家はそんな場所でありつづけるのだろう。
久保田和馬