TSMC「ピークはまだ」敵失でAI半導体ブーム独走、ASMLショックで鮮明になったインテルとサムスンの苦境とは
対して今回、ピークについて問われた際には「需要はまだ始まったばかり。この先数年は続くだろう」と、かなり強気な見方に変わっている。 これまでAIブームの立役者は、アメリカのGPU(画像処理装置)大手・エヌビディアであり、彼らのニーズに応えることでTSMCは成長を遂げてきた。だがこの1年で、エヌビディアだけでなくハイパースケーラーが独自AIチップを開発する動きが本格化している。 さらにエヌビディアの牙城を崩そうと、ライバルの半導体メーカーであるAMDはじめ、多くがAIチップの開発に本腰を入れ始めた。こうした彼らの需要も取り込んでいることが背景にあるようだ。
■TSMC一強が鮮明に もう一つ、TSMCが強気に傾いた背景には、競争環境の変化も影響している。最先端半導体の製造で競っていたアメリカのインテルや韓国のサムスン電子が最先端品の製造で苦しんでおり、「TSMC一強」体制が築かれつつあるのだ。 そのことを象徴するのが、「ASMLショック」だった。ASMLは、オランダの半導体製造装置メーカー大手。同社が10月15日に発表した決算では、受注額や来年度の業績見通しが市場予想を大幅に下回ったことで株価は急落。これが日本の株式市場にも冷や水を浴びせることになった。
ASMLは、最先端の半導体製造に欠かせない「EUV露光装置」を世界でただ一社、製造できる企業だ。EUV露光装置が同社の売上高に占める割合は3~4割程度ではあるが、その受注状況は半導体メーカーの最先端品投資へのバロメーターとも言え、注目が高い。 見通しを引き下げた要因についてASMLは、「AI以外の分野の回復が後れていること」や「一部の顧客で最先端品の立ち上げが遅れ、一定の需要が実現しないことが明らかになった」などと説明。名指しこそしなかったものの、「一部顧客」がインテルとサムスンであるのは明らかだ。
とくにインテルの苦境は鮮明だ。同社はファウンドリー事業の立ち上げに苦戦しており、今年に入り投資計画や人員の大幅削減を発表。その一貫として、ドイツとポーランドで建設を進めていた2工場の稼働を2年間延期することを発表した。 サムスンも、ファウンドリー事業でのシェア低下に苦しんでいる。台湾の調査会社トレンドフォースによれば、2021年末に18%あったファウンドリー業界内でのサムスンのシェアは足元で11%までじりじりと低下。最先端品の歩留まりに課題があるとされ、TSMCにシェアを奪われ続けている。現在はとくに、劣勢に回り始めたメモリー事業に投資を傾けている状況だ。