原価高騰・中国に買い負けで苦しむ回転寿司業界 値上げすると客離れが進む「101円の壁」との戦い
利益を出すはずのネタの原価率が上昇
ところが、魚介類の高騰や仕入れ時の買い負けによって「回転寿司業界のこれまでの常識が通用しなくなった」と指摘するのは、回転寿司評論家で『回転寿司の経営学』の著書がある米川伸生氏だ。 「海外から輸入する回転寿司のネタについては、サーモンを筆頭にモーリタニア産のタコなども、どんどん原価率が上がっている。マグロは中国にほぼ買い占められている状況だが、備蓄があるのと養殖マグロを入れられるからまだ安定している。マグロ以外にも養殖ができるハマチやブリのようなネタに関しては値段が落ち着いている。つまり、今はマグロより仕入れ値の高いネタがたくさんあるんです。キロあたりでいえばタコのほうが高いくらいです」 本来、原価率が低くて利益をあげられるはずのネタが高騰し、収益を圧迫している構図があるというのだ。とくに大手チェーンは“安さ”を売りにしてきただけに、苦境に立たされているという。米川氏が続ける。 「1皿100円で利益を出すのが基本なので、値上げをせずにネタやシャリを小さくする対応を続けてきたが、それもいよいよ限界に差し掛かっている。養殖魚に頼ろうにも、エサ代の値上がりで養殖魚も原価率が高いネタになっている。日本近海の魚を冷凍にして仕入れる大手チェーンも出始めたが、冷凍技術が発達している港がまだまだ少なく、十分な量を確保できていないのが現実ですね」
客足が鈍るから「1皿100円」に戻す
業界1位で626店舗を国内で展開するスシローは、1984年の創業以来値上げをしてこなかったが、原材料高騰により2022年から段階的に1皿10~30円の値上げに踏み切った。ただ、結果として2023年9月期の国内スシロー事業は減収減益となった。米川氏が言う。 「原材料の値上がりにより回転寿司を1皿100円で提供するのが難しくなっているが、大手チェーンは価格転嫁できずにいる。1皿100円だったものを200円にすると客が激減するのは目に見えている。それはつまり、お客さんにとっての回転寿司の魅力が味よりも、値段の安さにあったということです。 品質に満足してもらっているなら、値段が高くなっても客離れは起きないが、スシローも値上げで集客が20%ほど減った。それにより、創業40周年キャンペーンなどにかこつけて、また100円の寿司を多く出すことになった。値段を上げないと利益が出ないのに、値上げすると客離れが起きてしまい、価格を元に戻す。回転寿司業界は、水面下でもがき続けている状態です」 回転寿司業界は魚介類の高騰に加え、1皿100円超の値付けでは客離れが起きる「101円の壁」問題という二重の苦しみに直面しているわけだ。