世界に羽ばたく日本酒 「南部美人」五代目蔵元の挑戦
岩手県二戸市にある蔵元の日本酒が、中東ドバイに本拠地を置く航空会社「エミレーツ航空」のファーストクラスとビジネスクラスの機内酒として採用された。創業明治三十五年(1902年)の「南部美人」。五代目蔵元・久慈浩介専務(41)は「日本を訪れる外国のVIPに日本酒の魅力を伝えるチャンスです」と強い手応えを感じている。
「南部美人」にとって、機内酒を提供するのはこれが初めてではない。日本航空のファーストクラスにも2007年から提供している。しかし、まだまだやりたい足りないと思いを強くする。「飲み物のメニューを見ていると、ワインだけで数ページ分の品目があるのに、日本酒は1ページしかないんですよ」。 ワインは、産地や銘柄、作り方などでうんちくが語られ、世界中の愛飲家が細かな味の違いを楽しむために銘柄を選ぶ。一方、日本酒はワインと比べると「日本酒」という大ぐくりなカテゴリでしか語られないのではないか? 南部美人が海外に進出したのは97年。いまでは生産量の10%が海外向けだ。アメリカ、ブラジル、ドバイがあるアラブ首長国連邦など世界23か国に輸出するまでになった。 海外では日本食のレストランが3万店を超えるとも言われている。世界的な「日本食ブーム」にのったのか? いや、単にブームに乗ったのではない。久慈さん自身が切り開いてきたのだ。 1972年、蔵元に生まれた久慈さんは、後を継ぐ気がなかった。蔵は古いし、昔の二戸市にはコンビニエンスストアもなかった。学校の先生になるつもりだった。転機が訪れたのは、17歳の高校生のとき。1ヶ月の短期留学先でその気が変わった。アメリカ・オクラホマ州にホームステイする際、ホストファミリーにおみやげとして日本酒を持っていったところ、「ワイナリーの息子だぞ。君がこんな酒を作るようになるなんて、なりたくてもなれないことだぞ」と言われた。 そして、帰国間際にニューヨークのエンパイヤーステートビルから、一緒に留学していた友人と夜景を見た。「お前、ここで南部美人を売るんだろ? そうでなければ留学した意味がない」と言われた。「夜景を見てね、アメリカの国力ってすごいなと思ったんですよ。ここで南部美人が売れるのならやってみようと、それで醸造を学ぶために進学したんです」。