熱意だけでは動かせない…ユニクロがスタッフ数十万人を一気に変えた「仕組み」の力
社員全員が「経営者マインド」を持つ
ユニクロがすごいのは、一度仮説を立てて実行すると、ひたすらトライアンドエラーを繰り返し高度化できることです。これも仕組み化されています。 ユニクロでは、毎週月曜日に全社や店舗ごとの前週の売り上げ実績が出ます。思っていたより売れなかった商品や他の店で売れている商品などが目に見える形で明らかになりますので、それらを参考に自分の売り場づくりにフィードバックして修正します。 仮説、実行、改善を繰り返すことで、知見がたまって、好循環のサイクルを自分で回せる店舗スタッフが明らかに増えます。自ずとスタッフひとりひとりの経営者マインドも育ちます。スタッフが次の課題を自分で見つけ、それをどんどん解決して、より大きな成果が出るようになります。成果が出ればそれはスタッフの大きな自信となり、モチベーションも上がります。ひとりひとりが育てば、店舗全体も成長するのです。 その結果、地域のイベントと連動しながら、 欲しいときに欲しいものがあり、買い物がしやすい売り場を生み出せるようになりました。お客さま満足の向上とともに、店舗スタッフも変わったのです。 言われたことを受け身でやるのではなく、自律的に考え行動するようになり、モチベーションが上がったり、やりがいを感じたりする人も増えました。うまくいっている店舗の事例は全社で共有され、学び合うことでさらなる質の向上にもつながりました。 おそらく、みなさんの中には「店長ならばともかく、店舗スタッフにしてみれば、『経営者マインドを持て』と言われるのは重荷では」と感じた人もいるかもしれません。 確かに、「究極の個店経営」は店舗スタッフが主役です。スタッフが主役といっても、スタッフにやる気がなければ実現しません。これまでお伝えしましたように、教育の仕組みなどで、モチベーションが高まり自律的に取り組んでいる人もいますが、一方で腰掛け的に働いている人がいないともいえません。「社員でない人にそこまで求めるのか」という声もあるでしょう。 社員ですら働くモチベーションはさまざまです。お金のための人もいれば、自分の夢のための人、スキルアップのための人もいるでしょう。非正規の方ならばさらに多様かもしれません。 もちろん、働くことを通じて自分の夢や理想を実現することが最も大切ですが、同時にユニクロの理念を「自分事化」してくれることが個人と組織が結びつきながら両輪で成長するには不可欠です。そのためにも「仕組み」が重要になります。 そのわかりやすい仕組みが教育であり、雇用体系です。店舗スタッフの正社員化を進めたのです。 これまで非正規雇用が大半だった店舗スタッフを、「地域(リージョナル)社員」として正社員化する試みです。 具体的には2014年に日本のユニクロの店舗スタッフ1万6000人を地域社員に2~3年で転換し、正社員を当時の3400人から約6倍の2万人に増やすという構想です。 地域に根ざした経営をするには、本当にお客さまと向き合う人でないとできない、正社員化によってコミットを高めたいと判断したわけです。 そのためには、待遇を高めて、人材の流出を防がなければいけません。すでにその時点で、少子高齢化で将来的に人材確保が難しくなるのは自明でした。当然、短期的には企業としてのコストは大きく増えますが、長期で考えれば、人材確保、採用・教育コストの抑制になり、メリットが上回ります。 この正社員の登用拡大によって、店舗のチームとしての一体感は非常に強まりました。 やる気のあるスタッフにしてみれば自分の担当する部門で「経営者」として、大きなやりがいを持ちながら、自らのキャリアの未来も開けます。 スタッフひとりひとりの心に火をつける効果は、非常に大きいものがありました。 店長の「自分はこんな店にしたいんです!」という志と、店舗スタッフの「自分は(担当部門を)こんな売り場にしたいんです!」という志が、共鳴し合いながら、究極の個店経営実現のための「最強のチーム」がつくられる土壌が整ったのです。 「スタッフのモチベーション向上」というとどうしても精神論になりがちです。個別に相談に乗ったり、対応したりして解決する空気がまだありますが、一気に変えられるのは「仕組み」です。 そして、チームや組織の規模が大きくなればなるほど、「仕組み化」の効果もまた大きくなります。
※本記事は『ユニクロの仕組み化』を再構成したものです。
執筆:宇佐美 潤祐(元ファーストリテイリング執行役員)