熱意だけでは動かせない…ユニクロがスタッフ数十万人を一気に変えた「仕組み」の力
人は「What」だけでは動かない。重要なのは「Why」
まず、私たちが何をしたかというと「ユニクロの理念」を理解してもらうように努めました。「企業として何をやろうとしているか、その背景にはどうした考えがあるのか」を理解してもらえないと、スタッフの人たちの行動を変えられないからです。人は「What」だけでは動きません。重要なのは「Why」です。 地域ごとに店舗スタッフを集めて、企業の方針を理解してもらうためのダイレクトミーティングを開催しました。 ユニクロが「店舗スタッフを主役にした地域に根ざした個店経営」をなぜ目指しているかや、企業としての理念を伝えました。その上でユニクロの店舗で働く意味を考えてもらい、ユニクロの理念を「自分事化」してもらうことで、ひとりひとりに経営者マインドを根づかせるように試みました。 もちろん、スタッフだけ変わっても店長が旧態依然の考え方では成果は上がりません。店長は店長だけで集めて、「究極の個店経営」の考え方、つまりスタッフが主役の店づくりの意味を理解してもらいました。 それから各店舗で具体的に店舗スタッフを主役にした店舗経営をどのようにしていくかの試行錯誤が始まりました。 大きな試みのひとつが、「部門担当制」です。地域のことを一番よく知っている店舗スタッフにある特定部門(たとえばウィメンズのアウター)を担当してもらい、商品構成、売り場づくりを含めその商品群の経営を任せることでした。店舗の特定部門とはいえ、そこに関してはスタッフがひとりの経営者として行動することを求めたのです。 本部がいろいろ言うと押しつけになってしまうので、あくまでもスタッフ本人に行動してもらいました。店長は店舗スタッフの自律性を重んじながら店舗スタッフの成功を後押しする支援をしてもらいました。 当然、スタッフはこれまでと全く違う動きになります。 ユニクロの店舗は「在庫を切らさない」が大原則としてあります。これは簡単に思われるかもしれませんがかなりハードルが高い仕事です。 「在庫を切らさない」を重視して、どのような商品でも大量に発注していたら、売れ残りの山になってしまいます。 ニーズを先読みしながら在庫の強弱をうまくつけて販売計画を考える。そこからひとりのスタッフが責任を持って判断しなければいけないのです。 もちろん過去のデータを分析するなど、これまでの延長線上で判断できる部分もありますが、それだけだと機会損失を防げません。過去のデータからAIがベースになる販売計画は出してくれますが、AIはデータにもともとない状況には対応できませんので味つけが必要になります。既存のデータだけでは「本当はお客さまが欲しているのに、商品がないから呼び込めていない」状況は防げないのです。 ひとりひとりのスタッフの役割は、自分の担当分野でそうした機会損失を最小限にしながら、売り上げや利益を最大化することになります。カバーする範囲は小さいにしても、やっている仕事はまさに経営者の仕事そのものです。 スタッフは、それまでは店長に言われるがままに機械的に仕事をこなしていただけだったので大きな変化を求められますが、ものすごく特別なことを求められるわけでもありません。 重要なのは考えられるか、想像力を発揮できるかどうかです。どんなお客さまにこの店舗に来ていただけているのか、なぜこの店に来ていただけるのか、シーズンごとにどんなニーズを持っているのかを、自分で考えてみる、想像してみるのがファーストステップになります。お客さまのニーズを自分なりに考えてみます。 たとえば、「来週はこの地域では運動会が多いから、運動会に参加する保護者用のニーズを取り込む品ぞろえにしてみよう」と仮説を立てて動いてみます。もちろん、店全体での陳列や見せ方もあるので、店長も交えてそこは調整、修正します。