熱意だけでは動かせない…ユニクロがスタッフ数十万人を一気に変えた「仕組み」の力
数十万人に及ぶ世界中の店舗スタッフが一斉に変革したユニクロ。数十人を変えることさえ難しいにも関わらず、ひとりひとりに経営者マインドを持たせる「究極の個店経営」は、どのようにして伝わったのか。元ファーストリテイリングの執行役員で、『ユニクロの仕組み化』を上梓した宇佐美氏が解説する。 【詳細な図や写真】ユニクロもかつては「チェーンストア経営」で順調に成長していたが…(Photo:Wongsakorn Napaeng / Shutterstock.com)
※本記事は『ユニクロの仕組み化』を再構成したものです。
スタッフひとりひとりまで変える「究極の個店経営」
大きな成長を遂げようと思ったら、組織のメンバー全員に変わってもらうしかありません。ひとりひとりに変革の意識を持ってもらうしかないのです。 ただ、当然ですが、これは簡単ではありません。数十人の会社でも難しいはずです。それどころか、自分が所属している部署やチームの5人、10人を変えるのもハードルは低くありません。ですから、数千人、数万人、数十万人の組織になればなおさらです。 人を変えるには確かに熱意は重要です。ただ、大きな規模の組織になれば、メンバーひとりひとりに訴えかけて、個別に変わってもらおうとするのは現実的ではありません。 そもそも熱意は必要ですが、熱意だけでは人は変えられません。数十万人のメンバーを一気に変えられるのは、「仕組み」しかないのです。そして、ユニクロで世界中の店舗スタッフひとりひとりまで変える仕組みが、「究極の個店経営」です。 近年、小売業では、消費者のニーズが非常に多様化しています。同じ性別で同じ年代のお客さまが対象でも、地域ごと、店舗ごとに全く売れ筋が違うことも珍しくありません。 本社からの指示をただただ実行しているだけでは、ニーズを十分にとらえ切れないのです。メンバーひとりひとりが変革を意識する重要性は業態としても必要になっているわけです。 確かに、かつては違いました。店舗スタッフはそこまで考える必要はありませんでした。チェーンストアとして目標を掲げて号令をかけ、それを各地域、店舗で実行することで変革が起き、均質なオペレーションが生み出されていました。 このチェーンストア経営によりユニクロは順調に成長をとげていました。しかし、一方で、「これは本当にお客さまのためなのか」という議論がありました。全世界で均質のサービスは不可欠ですが、東京に限定しても、都心の店舗と郊外の店舗で同じものが求められているのかと考えると、やはり違いました。都心と地方でしたらなおさらですね。生活スタイルも違えば気候も違うわけですから、当たり前です。 そこでつくった新しい仕組みが2014年3月に打ち出された「究極の個店経営」です。全世界共通のチェーンストアオペレーションの土台の強みを生かしつつも、各店舗が地域に根ざして地域のお客さまに愛される一番店を目指します。ほかのどこにもない「個店」をつくるのです。 少子高齢化の成熟市場日本で店舗数を拡大するのが現実的でない中、売り上げを伸ばすには一店舗当たりの売り上げを伸ばすしかありません。そのためには、地域ごとのニーズを深掘りした店に変えていかないと、お客さまの本当の意味での支持を得られない危機感がありました。