知っているようで実は知らない!? 燃料電池の仕組みを「ホンダCR-V e:FCEV」で学ぶ
セパレーター1枚にも工夫が満載
さて、ここからはホンダがCR-V e:FCEVに搭載する最新のFCスタックを参考に、実際の車載燃料電池の構造をひも解いていこう。 まずはFCスタックの最小単位であるセルについて。キモとなる電極集合体はセラミックを基材とした薄い板で、両面には化学反応を促す触媒(白金)を混ぜたカーボンが塗布されている。これが水素極と空気極の役割を果たすのだ。 いっぽう、もうひとり(?)の主役であるセパレーター(バイポーラプレートとも)はステンレスでできており、導電性を高めるべく特殊な表面加工が施されている。前項にて「回路を電子が移動する」と述べたが、積層型のFCスタックでは、セパレーター自体がその回路の役割を果たしているのだ。さらに、セパレーターにはプレスで微細な山/谷が加工されていて、電極集合体と重ねた際に、両者の間にトンネル状の“すき間”ができるようになっている。皆さんお察しのとおり、水素極ではこのすき間を水素が、空気極では同じく空気(≒酸素)が通るのである。 ホンダでは、この電極集合体とセパレーターとを交互に、無数に重ねることにより、数百層ものセルを内包するFCスタックを形成しているのだ。ちなみに、こうした構造のFCスタックをバイポーラ型と言うのだそうな。 ……画面の前のアナタ、今こう思ったでしょう。「え、そんな簡単な構造なの?」と。いやいや。この世界では、複雑な装置をシンプルにつくることが、いちばん大変なのだ。 例えばこの一枚のセパレーターだが、実は厚さ0.1mmの極薄のプレートを、2枚重ねてできている。理由は、その内側に冷却水を流すためだ。化学反応で電気を起こす燃料電池は、稼働時に熱を発生するため、冷却システムの導入が必要となる。既存のホンダのFCスタックにも、複雑な冷却機構が取り入れられていたのだが(詳しくは後述)、この“2重セパレーター”の採用により、セパレーターに冷却機能を集約できるようになったのだ。 また、この構造はFCスタックの冷却性能向上=耐久性のアップにも寄与している。既存のホンダのFCスタックでは、2枚の電極集合体と3枚のセパレーターからなるユニットの外側に冷却水を通していた。要するに、2セルごとに冷却層を設ける“間引き冷却”となっていたのだ。いっぽう、新しいFCスタックではセルひとつにつき1層の冷却層を設けることが可能となり、冷却性能が大幅に向上したという。 ちなみにこの「冷却機能付きセパレーター」だが、金属パネルが薄すぎて、通常の溶接では組み立てるのが不可能だったとか。電圧が高いと貫通してしまうし、低いとそもそもくっつかない。そこでホンダでは、ゼネラルモーターズと共同で高精度レーザー溶接技術を新開発したとのこと。セパレーター一枚とってもこれである。新しいものをつくるというのは、げに大変なことなのだ。