ロケット弾が飛んでくる地域で暮らし続けるか、平和に暮らせる別の国に移り住むか 戦闘に直面したイスラエル在住日本人女性たちの葛藤
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘。外務省領事局海外邦人安全課によると、衝突が始まった10月7日時点でイスラエル(パレスチナ地区を含む)に約1300人いた日本人は、11月中旬には800人ほどになった。「しょっちゅうロケット弾が飛んでくる」地域で暮らす女性は体調を崩しながらも、国の出動要請に備える看護師の夫と共にいたいと現地に残る。一方、友人の親族がハマスの人質となった別の女性は国外に一時避難した。11月下旬に再び現地に戻ったが、「平和に暮らせる別の国を探すべきだろうか」とも悩む。これ以上犠牲が増えないことを願いながらも、双方の分断の深さを目の当たりにし、先の見えない日々に不安を募らせている。(共同通信=永井なずな) 歴史が生んだ「世紀の難問」…イスラエル、パレスチナの争いはなぜ始まった 基礎から解説
▽頭上を飛ぶロケット弾 テルアビブ郊外に住む好光結希さん(32)は今も現地で暮らす。「しょっちゅうロケット弾が飛んでくるので、買い物などの外出はなるべく減らしている」と話す。仕事はマーケティング関係で、予備役に招集された同僚も多い。自身はリモートワークが可能だが、出社の必要な人たちはシェルターの場所や避難経路を入念に調べて通勤しているという。 10月下旬、夫と車に乗っていると突然、町のあちこちで「ウィーンウィーン」とけたたましくサイレンが鳴りだした。ガザ地区からのロケット弾飛来を告げる警報だ。国公式のスマートフォンアプリも、ほぼ同時に警報音を発した。すぐに車を降り、道路にうつぶせて両手で頭を覆い、夫と身を寄せ合った。 やがて体に響く振動と共に、上空で「ドンドン」とロケット弾が迎撃される音が聞こえた。2分ほどたって警報はやんだが「気持ちが張り詰め、死が頭をよぎった」。10分ほどその場に待機し、その場を離れた。
自宅アパートにいる時にサイレンが鳴れば、軍の市民向けマニュアルに従ってすぐに窓を閉め、普段は仕事部屋として使っているシェルターに逃げ込む。他の部屋より壁の構造が頑丈で、窓は鉄製のカバーで覆うことができる。 警報と避難で入浴や睡眠が遮られる日も珍しくなく、寝不足や頭痛に見舞われるようになった。「日々の暮らしが脅かされ、連れ去られた人質も戻ってこない状況では、ハマスへの反撃は仕方ないと受け止めている」。一方で、このままでは双方の犠牲はとまらない。「この葛藤を伝えるのは本当に難しいが、日本にいる人に少しでも想像してもらえたら」と願う。 ▽ハマス襲撃にもどかしそうな夫 好光さんは滋賀県で育ち、中高時代に世界史でナチス・ドイツによるホロコースト(大量虐殺)について学んだ時に「なんでユダヤ人が殺されなあかんかったん(殺されなければならなかったのか)」と疑問が膨らんだ。京都の大学で国際政治を専攻して中東問題を学び、大学院ではユダヤ教やイスラム教を研究。ヘブライ語を上達させて宗教や歴史をより深く学びたいと、2014~15年にイスラエルに留学した。