フェアーグラウンド・アトラクションが語る日本での再出発、名作の誕生秘話、解散の真相
ファンタスティックな音楽性とその背景
―2人が一緒にやり始めた頃、「オルタナティブ・キャバレー」と呼ばれたシーンで歌っていたと聞きました。 エディ:オルタナティブ・キャバレーね。そういったシーンが生まれたばかりの頃だった。今やスタンダップ・コメディアンは新しいロックンロールで、全国で20から30カ所くらいの大会場をツアーしているけど、あの頃はまだ昔ながらのコメディ・クラブしかなかった。 マーク:そこにコメディ界の言わばインディ・ロックにあたるような連中が出てきて、それまでとは異なる小さなクラブや会場に出演し始めたんだ。英国で今コメディの人気が高い理由のひとりが、ボブ・モートマーで、自分のTV番組を持つほど、とても有名になったんだけど、彼も僕らと同じ頃に始めた。それが2年後には、彼は大ヒットしたTV番組に出演し、僕らはナンバーワン・ヒットを放つことになった。でも、僕らがそういった小さな店に出ていたときは、30分のコメディの間に3、4曲歌うといった感じだった。 ―音楽的には好き勝手にやれた? マーク:いずれにせよ、当時は僕らにぴったりの場所はどこにもなかったわけだから。86~87年の音楽界で起こっていたことは、僕らのやっていることから凄くかけ離れたものだったし、自分たちのやっていることが35年後にも東京のソニー・レコードから発売されるなんて想像もできなかった。そんなことを言う人がいたら、狂人扱いだったろうね。だって、僕らの音楽はファッショナブルで人気のあるものとは正反対だったから。でも、僕は自分のやりたいものをそのままやることについてはとても頑固だったんだ。 エディ:私に関してはすごく自信があった。マークは自分の曲が受け入れられるか不安を感じていたかもしれないけど、私は素晴らしい曲だとわかっていたし、それらをみんなに気に入ってもらえると思っていた。私が大好きなのと同じくらいに誰もが大好きになると信じていたわ。バーで(エルヴィスの)「ザッツ・オールライト・ママ」を歌えば、そのエネルギーで店内のみんなを夢中にさせられると知っているけど、私は同じようにそれらの曲のためにぴったりのエネルギーを持っていたから。それは歌手にとって、自分を解放する体験なの。だって、自分自身の書いた曲を歌うときのような恥ずかしさはないし、シャイになることなく「聴いて! これはファンタスティックな曲だから!」と叫ぶことができた。 マーク:それはお互い様だったよ。僕も自分のバンドを宣伝するのではなく、エディを紹介するんだから、「見てくれ! 彼女はファンタスティックだろう?」とね。 ―フェアーグラウンド・アトラクションのジャズ、フォーク、シャンソン、ロカビリー、ニューオーリンズなど、様々な音楽がミックスされたサウンドはどのように生まれたのでしょう? ジャズ・ドラマーのロイ・ドッズ、ギタロンなんて珍しい楽器を弾くベーシストのサイモン・エドワーズを加えたとき、既にバンドのサウンドについてアイデアがあって、彼らを選んだ? それともたまたま彼らと出会って、こういったサウンドを持つバンドになったんですか? マーク:僕のエトスは、ジャズ・ミュージシャンがポップ音楽をフォーク音楽の楽器で演奏するというものだった。 エディ:ハハハ。 マーク:そのアイデアの一部は、ビートルズの『ホワイト・アルバム』からなんだ。あのアルバムでは、たくさんのアコースティック・ギターが聞こえるけど、それらはポップ・ソングだ。それらの曲の方がエレクトリック・ソングよりも好きだ。アコースティックなポップ・ソングが大好きなんだ。そして、ジャズも大好きなんだ。フォーク・ミュージシャンの演奏スタイルはあまり好きじゃなくって、ジャズ・ミュージシャンの演奏が好きなんだ。ポップ・ミュージックが好きだけど、それをサウンドの枠組にした。かっちりと決めたわけじゃない、感覚に基づいて、これは正しくない、これも間違っている。これはいいね、と僕の頭のなかで線が引かれていった。エディもミュージシャンを加えることを心配していたね。 エディ:私はドラマーを加えたくなかったの。それまでに仕事をしたセッション・ドラマーはみんながファシストだった。彼らはここで入ってこいと勝手に決め、カウントを数えだす。「違う、違う、私についてきてよ」と言わなくちゃならない。私は自分のやりたいことを通す頑固な人間で、マークも付き合うのが大変だったでしょうね。フフフ。私にこうやれなんて言うことは誰にもできないわ。でも、あの頃はそうする必要があったの。 マーク:当時は僕らのどちらもがそうだった。 エディ:どちらも独断的だったね。 マーク:そんな2人の意見が合うときは強力なパワーが生まれたけど。意見がぶつかると悪夢だった。 エディ:そうそう。 マーク:ミュージシャンを探し始めたとき、最初に必要だったのがベース・プレイヤーで、それもダブル・ベースのプレイヤーが必要だった。サイモンはブリストルで知り合って、ロンドンのカムデンでばったり会った。ダブル・ベースも弾くよね?と訊いたら、「いや。でも、ギタロンを19ポンドで買ったばかりだ」と言うので、じゃあ、それを持って来てくれと誘った。 エディ:私はその楽器を見て、「だめよ、だめよ、そんな楽器はだめ!」と叫んだわ。 マーク:彼が巨大なウクレレのようなものを取り出したからね。でも、それを弾きだしたら、悲しく美しいサウンドだったんだ。僕らは「うわあ」と声を発するだけだった。 エディ:そして、それに合わせて、ロイがブラシでドラムスを叩きだしたら、「うわあ、なんて素晴らしいサウンドなの」と思った。アニタ・オディがジーン・クルーパのドラムズで歌っているみたいな,私好みのサウンドになったの。