トラブルの原因に…デイサービスの運転手がおじいちゃん、おばあちゃんの会話に加わるのはNG!【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#34 デイサービスの運転手編(下) ◇ ◇ ◇ 昨日に続いてデイサービスの運転手・柳田さん(仮名.67歳)の体験談を紹介する。 【前回はこちら】3年前からデイサービスの運転手に…最高齢は74歳、仕事は変則的で休憩時間が長い 午前と午後に計12人の利用者を送迎するのが仕事だ。利用者は全員85歳以上。男2割、女8割だ。仕事中に揉め事が起きることもある。 「おじいちゃん、おばあちゃんの会話に口をはさむのはNG」 柳田さんは採用時の研修でこうクギを刺された。利用者には認知症の人もいる。「そうですねぇ」と曖昧にうなずいただけでトラブルに巻き込まれるという。 「たとえば女性のAさんとBさんをクルマに乗せていて、Cさんの家に迎えに行ったとき、Cさんの息子のお嫁さんが見えたりします。これがトラブルの原因になるのです」と柳田さん。 Cさんの嫁が、義母であるCさんに冷たい態度を取ったら、AさんとBさんにとって格好の世間話のネタになる。 A「ねえ、Cさんの家のお嫁さん、ずいぶん冷たいわね」 B「そうかしら」 A「この前はCさんを叱ってたわよ。あれは虐待ね。運転手さんだってそう思うでしょ?」 と柳田さんに同意を求める。こうした場合、相手の機嫌を損ねたくないため、つい「そうですねぇ」などと曖昧にうなずいてしまうもの。これが災いのもとなのだ。 後日、AさんがCさんに「お宅のお嫁さん、意地が悪そうね。運転手さんもそう言ってたわよ」と柳田さんを話に巻き込んでしまう。すると、その話がCさんの嫁に伝わり、嫁が施設に「柳田という運転手が私の悪口を言ってるらしい。どういうことですか!」と怒鳴りこんでくるのだ。 柳田さんによると、トラブルをつくったAさんは認知症ぎみのため、自分が何を言ったか覚えていない。運転手がとんだトバッチリを食らう。こうした事態を避けるために、施設側は「世間話に乗るな」と指導するわけだ。 クルマの中が自慢大会になることもある。 「俺の家は大きくて立派だ」「うちの犬は頭がいい」 こんな話を毎回、30分間しゃべり続ける人がいる。聞いているほうはだんだんイラついてきて口喧嘩に発展。柳田さんが両者をなだめることもある。 ■手を貸すのもルール違反 迎えに行ったときは利用者と対面に立ち、後ろ歩きしながらクルマまで誘導する。高齢者の足取りがヨロヨロしていると、つい手を貸してしまうものだが、これはルール違反だそうだ。 「利用者の体に手を触れるのは介護士のような専門職という決まりがあるのです。研修では『運転手は利用者に触れてはいけない』と指導されました。でもまあ、それはあくまでもルールの世界。実際は危ないので手を貸しますよ(笑)」 1人暮らしの高齢者がデイサービスの日を忘れることもある。柳田さんが玄関でピンポンすると寝間着のまま出てきて「今日はデイサービスだっけ?」と反応。その場合は施設に電話して指示を仰ぐ。大抵は「次の人が待っているので乗せずに行ってください」と言われるそうだ。 「トラブルも多いけど、利用者の家族に感謝されることもけっこうあります。お嫁さんがお礼の差し入れを持ってきたら、運転手や職員で分ける。そういう意味でやりがいのある仕事です」 ただし利用者をクルマに乗せてシートベルトを装着する作業は腰に負担がかかる。そのため柳田さんは、この1年ばかり腰痛に苦しんでいる。(この項おわり) (林山翔平)