子供はウクライナのニュースをどう受け止める? 大切なのは親子の会話
2)人助けについて一緒に考える
心理学用語で、「他愛」という言葉があります。自分が抑うつや不安を感じている時、「自分が誰かの役に立っている」と感じると、つらい気持ちが和らぐという考え方です。 ですので、子供と一緒に「どうやってウクライナの人たちの助けになってあげられるか」を考えてみるとよいでしょう。難民支援基金などに寄付をすること、地域にウクライナ系の方が住んでいるなら優しい声をかけることなど、家族でできることを話し合ってみてください。 そして、ウクライナから逃げてきた人たちを受け入れている国があること。困っているウクライナの人たちに、飲み物や食べ物、衣類や毛布、赤ちゃん用のミルクやオムツを無料で差し出している人たちがいること。そういった、ウクライナの人たちを助けている支援者(ヘルパー)の存在に目を向け、子供に教えてあげましょう。
3)簡単に悪者を作らない
子供向けの童話などには大抵悪者がいて、正義の味方が悪を倒す構図が多いです。しかし現実世界においては、悪者と善人の対決ではない複雑な関係が多いです。 ロシアのウクライナ侵攻に関しても、戦争を始めたロシアという国への批判や、大統領への批判は合理的なものかもしれません。しかし、その批判を拡張して、「ロシア人は全員悪者だ」と考えてしまう思考は非常に危険です。 9・11のテロの後には、イスラム教徒の方や、イスラム教徒と疑われた人への暴力が頻発しました。アメリカでは第二次世界大戦中、日系アメリカ人は「敵国の人」として収容施設に送られました。このような暗い歴史は絶対に繰り返してはいけません。 もし知り合いにロシア人がいたり、近所にロシア料理店があるという場合は、他の人と同じように優しい心を持って接するよう、家族で話し合ってみましょう。
今は不安でもいい
コロナ禍でのストレスもたまってきている今の時期に、悲惨なニュースを聞いて不安になってしまうことは、大人にとっても子供にとっても普通のことです。今は、不安でもいいんです。むしろ自分たちの不安な思いを肯定して、家族内で話し合える雰囲気を作ることが大事だと思います。 そして、ニュースやSNSを見すぎないことも重要です。春風の心地よさを感じたり、美味しい食事を楽しんだりと、自分の生活の中の喜びを噛み締めることも忘れないでください。これは子供だけでなく大人にも言えることなので、自分の楽しめる時間や、家族と少し離れて過ごす一人の時間を大切にしてください。 また、不安はほとんどの場合は時間と共に落ち着くものです。気にしすぎないことが一番ですが、もし不安が原因で日常生活を送ることが苦しくなることがあれば、是非専門家の受診を考えてみてください。 私も同じようにコロナや戦争に関して不安を抱えていますが、安全に過ごせる日々に感謝しつつ、家族と歩んでいこうと思います。一緒に頑張っていきましょう。 ==== 内田舞(うちだまい) ハーバード大学助教授 小児精神科専門医 北海道大学医学部卒。在学中にイェール大学研修医プログラムにマッチし、卒業と同時に渡米。イェール大学病院で成人精神科レジデンシー、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児思春期精神科フェローシップを経て、2013年よりマサチューセッツ総合病院小児精神科指導医。現職はハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。小児精神疾患の診察と治療、子供の感情や思考に関する脳画像研究、子どもと家族の健康に関わる教育を専門とする。