東京都「AI婚活」の怖さ ──連載:松岡宗嗣の時事コラム
東京都は9月20日、18歳以上の独身男女を対象に、AIマッチングシステム「TOKYO縁結び」の提供を開始した。ライターの松岡宗嗣は、国や自治体による「官製婚活」に違和感を覚えたという。なぜか? 【写真を見る】AIマッチングシステム「TOKYO縁結び」をおさらい
東京都がAIマッチングシステム「TOKYO縁結び」を9月20日に開始した。 2023から2年間で約5億円の予算が使われている東京都の結婚支援事業だが、批判的な報道はあまりない。 国や自治体による「官製婚活」。結婚したい人々を行政が支援することは、一見「幸せ」な家族を増やす良い取り組みと思うかもしれない。しかし、私は官製婚活の広がりに怖さを感じる。 少子化対策という国家の人口管理のため、結婚や妊娠出産という個人の自由に介入し、子どもを産ませるため結婚を促し、一方で性的マイノリティなど“望ましい家族”の形に当てはまらない人々は排除する。 結婚支援という「幸せ」のイメージの背後で、国家のために人々の人生や価値観を誘導しようとする考え、そこに警戒感を抱く。
結婚支援の背後にある国家の意図
東京都の実施した調査によると、「理想的な相手がいれば1年以内の結婚を希望する」という人が約7割いる一方で、そのうち約7割が「婚活をしていない」との回答だった。これがAIマッチングサービスを始めた背景にあると説明している。 「TOKYO縁結び」では、会員登録するとAIが相性の良い相手を紹介し、婚活の専門スタッフにも相談ができる。それ以外にも、東京都の結婚支援施策のなかには、「結婚を応援する社会気運の醸成」として、「結婚にまつわるエピソードの漫画化&結婚思い出ソング」をつくることなどが挙げられている。 他にも、「東京にいる多様なふたりの生活」のストーリーを掲載した「TOKYOふたりSTORY」や、AIを活用した結婚や子育てなどのライフプランを若い段階からイメージできるという「東京ライフデザインシミュレーター」などがWEBサイトに掲載されている。 結婚したいけれど、出会う機会がない。だから自治体が新しい男女の出会いを支援し、結婚を応援する社会の機運を醸成する──。聞こえの良い言葉だが、その背後には、子どもを産ませるために個人の人生や価値観に介入しようとする国家の意図がある。 国や自治体による結婚支援政策、いわゆる「官製婚活」は、2013年の第2次安倍政権が、結婚や出産促進の取り組みに対して交付金をつけたことから広がっていったと言われている。 全体として子どもの出生数は減っているが、結婚した夫婦が持つ子どもの数を示す「完結出生児数」に絞ると、1970年代の2.2前後から2021年の1.9と、下がっているとは言えあまり差はない。つまり、結婚さえしていれば子どもは産まれるという前提から、少子化対策は婚姻数をあげることが重要だとして、官製婚活など結婚を促す施策が増えているようだ。 海外と比べて婚外子が非常に少ない日本では、確かにデータを見る限り、婚姻数をあげることが出生数をあげることに繋がるのかもしれない。 しかし、「子どもを産ませるために結婚させたらいい」と手放しに国や自治体が官製婚活を広げることには大きな疑問を抱く。 まず第一に、女性を出産のための母体と捉えている点だ。結婚するかしないか、子どもを持つか持たないかは「個人の自由」で、行政が女性を子を産むための身体としてのみ捉え、国のために結婚や妊娠出産へと促すことは、「性と生殖の健康と権利(SRHR)」の観点から問題がある。 「女性は子どもを3人産んで一人前」といった政治家の発言など、近年は女性を産む機械のように捉えることは問題視されるようになった。直接的に出産を求める政策は打てないというときに、結婚を促すというのは取り入れやすいのだろうか。しかし「結婚を応援する社会気運の醸成」など、結局は女性を子を産むための身体と捉え、結婚しろとプレッシャーをかけていることにほかならない。