東京都「AI婚活」の怖さ ──連載:松岡宗嗣の時事コラム
差別や抑圧への加担
次に、結婚支援の名目で、行政が差別や不平等、抑圧、格差の拡大に加担してしまう点だ。 東京都のAI婚活マッチングサービスは、当然だが「結婚させること」を前提としているため、その対象は「独身の男女」で、性的マイノリティの存在は想定されていない。 WEBサイトにはLGBTQ+に関する記載はなく、「東京にいる多様なふたりの生活」のストーリーを掲載したというページには、「多様なふたり」と言いつつ異性カップルしか登場しない。 同性婚が認められていない現状では、結婚のための出会いの場は異性カップルを前提とするのが当然だと思うかもしれない。しかし、東京都は2022年に「パートナーシップ制度」を導入している。もし「多様性」を重視し、人権の観点から差別や不平等を是正しようとする姿勢があるのなら、男女の出会いだけでなく、多様な性のあり方の人を含めた出会いのサポートもしているはずだ。 そうした視点がないのはなぜか。答えは明白で、目的が少子化対策だからだろう。子どもを産ませるための結婚支援であるから、性的マイノリティは除外される。以前、「LGBTに生産性はない」という国会議員の言説が批判を受けたが、根本的な考えにはたして違いはあるのだろうか。 東京都の結婚支援政策には、2年間で約5億円の予算が使われている。「結婚を応援する社会気運の醸成」をはじめとした予算の中には、結婚しない人、結婚制度から排除されている人の税金も使われている。自治体側は「あくまで結婚したいけどできないという人に絞って後押ししているだけだ」というかもしれない。しかし、行政が直接的に結婚支援を進めることは、対象となる人以外に対しての結婚への圧力に繋がりかねない。 先日、東京都のサイトに掲載された婚活イベントに申し込んだ軽度知的障害の男性が、運営側から参加を断られた件も報道されている。 一般的に、婚活では相手の年収や学歴などが検討項目に入ってくるだろう。誰と付き合いたい、結婚したいと思うかは自由だが、差別や偏見、格差の問題と無関係ではない。本来は不平等の解消が行政に求められる役割のはずが、むしろ行政がそうした点を拡大させる方向に加担する懸念がある。