大東駿介が舞台の魅力を語る「妻を失った男性をどう演じるか、役作りから演出家、共演者のみんなと共有して」
◆こんな共演者に僕もなりたい そして共演者の浅野和之さんがまた素晴らしいんです。名優と言われる俳優であるのはもちろんのことですが、それ以上に人間として優しい。化け物のような覇気でこちらを圧倒してくる俳優は、芸能界にたくさんいらっしゃいます。浅野さんはそういった方と同じ実力を持ちつつ、それでいて謙虚で日差しの中で揺れるカーテンのような軽やかな雰囲気も持っている。実際、とにかく身が軽い!30代の僕よりも身体が動いているのじゃないか?と思うくらいです。 実は台本を読んだ当初、僕が演じるのは妻を失った“男”のほうではなく、浅野さんが演じる“未来”と“現在”だと勘違いしていたんです。浅野さんにこの話をしたら「大東くん、僕には“男”が思い悩むような未来はもうないよ」って。70歳という年齢だけを聞いたら頷く方もいるかもしれませんが、実際の浅野さんは微塵の老いも感じさせないので笑ってしまいました。「いやいや、バリバリ現役ですやん」みたいな(笑)。アイデアは溢れかえってくるし、真夏の稽古なのに疲れた様子が一切ない。 役者に演技力はもちろん必要です。けれど「演技さえできればいいだろう」という態度ではなく、共に過ごす相手を心地よくできる人たちだからこそ、個々の演技力を足した以上の舞台を作り上げることができるのだと感じました。僕が誰かの“先輩”になる暁には、こういう共演者でありたいなと思います。 舞台では、浅野さん演じる“未来”からは、膨大なセリフ、そして膨大な量の情報が僕に向かって一瞬で飛んできます。個人の喪失の物語だけでなく、政治、地球環境、宇宙…と多くの問題を我々に突きつけてきます。確かにさまざまな事柄に対して人類は騙し騙しやってきましたけど、そろそろ限界が近づいていると、危惧している人もいます。後悔することはないのか?一旦立ち止まって考え直せよと言われているようにも感じます。 (構成=岡宗真由子)
大東駿介
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