規制改革と自民党総裁選:ライドシェア全面解禁が試金石に:小泉政権以来の規制改革の大きな流れを作れるか
ライドシェアの全面解禁だけでは規制改革としては小粒
総裁選では、ライドシェアの全面解禁の賛否が、「規制改革」に前向きかどうかの試金石になっている印象がある。しかし、ライドシェアの全面解禁だけでは、規制改革としては小粒である。規制改革に前向きな総裁選候補者は、その他の分野でも具体的な規制改革案を示し、活発な議論を主導して欲しい。 岸田政権下で、規制改革の取り組みは概して盛り上がりを欠いたとの印象がある。規制改革(規制緩和)が最も注目されていたのは、2001年4月~2006年9月の小泉政権時代だ。小泉政権は、郵政民営化を核として、構造改革を推進していった。 政権発足の直前にできた総合規制改革会議が、(健康保険診療と自由診療を同じ患者の同じ病気に適用する)混合診療の解禁、医療機関経営への株式会社参入、医師免許への更新制導入などの意欲的な規制改革を提唱した。そのうち混合診療の解禁は、不完全ながらも一部実現した。 次の安倍元首相は、「いかなる既得権益も私のドリルから無傷ではいられない」と、岩盤規制に挑む覚悟を強調した。2020年春には、医療界が抵抗していたオンライン診療の全面解禁を実現させた。 また、加計学園による獣医学部の新設では、族議員ら政官業の強い抵抗を押し切って既得権益に風穴を開けたが、首相のスキャンダルによって志半ばに終わった。 次の菅政権は、既得権益の打破を掲げるとともに、「規制改革を政権のど真ん中に置く」と宣言した。しかし同政権が推進した通信費の引き下げは、規制改革ではなく競争政策だ。 規制改革を実施しようとすると、族議員、官庁、業界などから強い反発にあう。それを打ち破って改革を前に進めるためには、首相の強いリーダーシップが欠かせないだろう。 ライドシェアの全面解禁だけで規制改革の「やったふり」をするのではなく、反対勢力との全面対決を覚悟し、小泉政権以来となる規制改革を強く進め、それを経済の再生につなげていくような新政権の誕生を期待したい。 (参考資料) 「規制改革に再び光を 返り血を覚悟で岩盤崩せ」、2024年3月27日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英