中谷潤人vs井上尚弥は伝説の一戦を想起させる「超一流の戦い」アメリカの名トレーナーが語る夢のカード
ジュントは移民ではないが、15歳の少年がたったひとりでアメリカに来て、毎日トレーニングするのは簡単なことじゃない。高い志を持って、自分を貫いてきたんだ。一歩一歩進んできたのさ。孤独に耐える作業もあっただろう。悔しい思いもしたはずだ。それでも、ひとつひとつ乗り越えたからこそ、今がある」 ロブレスが発する言葉は、胸に突き刺さる。修羅場を潜り抜けた男ならではの説得力を持つ。そして、自らの生き方に対する矜持も伝わる。彼の足跡を語る折、避けられないのがアンディ・ルイス・ジュニアのトレーナーを降りた件である。 2019年6月1日、ルイスは圧倒的不利の下馬評を覆し、アンソニー・ジョシュアを7ラウンドKOで下してWBA・IBF・WBOヘビー級タイトルを奪取した。ロブレスは、同じメキシコ人であるルイスの金星を我がことのように喜んだ。指導者として、己の功績にもなった。 が、3冠ヘビー級チャンプとなったルイスは、この世の春を謳歌し、パーティー三昧の日々を送る。練習にまったく身が入らず、半年後の再戦で呆気なく王座から陥落。キャンプ中も、あそこが痛い、ここが痛いと週に4回ほどしか汗を流さなかった。起床することさえ、難しいような状態だった。 ロブレスは振り返る。 「きちんと準備すれば、リターンマッチにも勝てた。『おまえとは今回限りだ。ハートのない選手とは一緒にやれない! 選手もトレーナーも魂があって初めてともに闘える』と伝えたよ」 米国におけるトレーナーの給与は、選手が受け取るファイトマネーの10%が相場だ。ヘビー級トップ選手のチーフセコンドとなれば、報酬は日本円でウン千万となる。だが、ロブレスは妥協しなかった。そんな彼だからこそ、脇目も振らずに走り続ける中谷を評価するのである。
【中谷vs井上を望む声に思い出す、伝説のタイトルマッチ】 「ナオヤ・イノウエもまた、一級品。パウンド・フォー・パウンド1位を争うに相応しいチャンピオンだ。肉体的にも精神的にも、間違いなくトップ中のトップだ。イノウエとジュント、同じ国籍で無敗の世界チャンピオン同士が戦うなんて、夢のあるカードじゃないか。プロモーターなら、誰だって実現させたいよ。スーパーバンタムでやるのが、両者にとって最良だろう。 しかし今、ジュントは118パウンドのバンタム級で、イノウエは122パウンドのスーパーバンタム級。イノウエが再びバンタムに落とすのは現実的じゃない。ジュントが一階級上げることになるだろうな。となると、イノウエ戦までに3、4試合こなす必要がある。 技術的にどうこうじゃなく、122パウンドの体にすることが課題だね。ボクシングのスキルは、非の打ち所がないよ。その3、4戦で、ジュントの経験値もイノウエに追いつくんじゃないか。1年もしたら、とんでもないレベルに達すると私は見ている」 ロブレスはしみじみと言った。 「このふたりのファイトは、日本のみならず、いつまでも世界中のボクシングファンの記憶に残るハイレベルなものとなるに違いない。超一流の戦いだよ。 イノウエは、5月のルイス・ネリ戦でファーストラウンドにダウンを喫したね。結果的には圧勝だったが、序盤はやや自信を持ちすぎていたんじゃないか。『絶対にKOしてやる』という思いが強すぎたのかもしれない。ネリだって、左右のパンチに威力を持つ元世界王者だ。でも、イノウエはあれで目を覚ましたよね。 イノウエはサウスポーとの試合が続いているが、ジュントは背が高く、リーチもあって、伸びるパンチを持っている。足も使えるし、接近戦での打ち合いだってできる。賢いうえに、シャープな戦いをする。これまでのサウスポーとはレベルが違う。ジュントのボクシングIQは高い。イノウエもそうだけどね」