創業86年の問屋をネット通販に業態転換、門外漢の工具業界に飛び込んだトップセールスマンの挑戦 結婚きっかけで跡継ぎに、従業員ゼロからの再出発
社長の娘と結婚して工具問屋の後継ぎになった若者が、従業員を解雇して業態を転換、赤字会社を再建した。ドラマのような展開を地で行くのは、工具のインターネット販売を手がける大都(大阪市)だ。新型コロナウイルス禍で増えた「おうち時間」を背景に、家具や内装を自分で作る「DIY」人気が高まり、着実に業績を伸ばす。今年2月には大工や個人事業主らプロ向けの通販サイトを開設し、安さを武器に大手へ挑む。時代の変化をかぎ取り、どのようにして会社再建に成功したのか、社長の山田岳人さん(53)に聞いた。(共同通信=小林笙子) ▽結婚をきっかけに飛び込んだ工具業界 サラリーマンの家庭で育ち、大学卒業後はリクルートに入社した。とにかく働くことが好きで、関西のトップ営業マンとして奔走した。独立志向が高まっていたころ、結婚をきっかけに大都へ入社した。 「大都は1937年創業の工具問屋です。ビスやペンチをメーカーから仕入れて、ホームセンターなどの小売店に販売するのが家業でした。入社のきっかけは結婚です。当時の社長に『娘と結婚するなら後継ぎになってくれ』と言われました。28歳の時です。工具業界は初めてで外様でしたから、最初はもまれましたよ。専門用語どころか工具の名前すら知らない。運搬用の2トントラックを運転しながら覚えました」
▽経営状態を知らない社員。業者間の価格のたたき合いで赤字続き 知識も経験もない人間が現場ですぐに通用するわけではない。扱っている商品や商習慣に慣れるまで苦労の連続だった。営業マンとして鍛えた根性で家業の転換に着手した。 「会社の立て直しが必要なことは分かっていました。ただ、収益構造を知ろうにも、周囲から『そんなもんは知らん』とあっさり言われました。経営状態を知らない社員ばかりで『いつか良くなるでしょう』と言ってるのを聞いた時は仰天しました」 「1人で決算書と向き合い、収益をどう改善するか考える日々です。その結果、問屋業を廃止し、工具のインターネット通販事業への転換を決断しました。当時は売り上げの半分をホームセンターからの注文が占めていて、価格のたたき合いが起きていたのです。工具問屋と小売りの立場の差が明確で、大都のような中小零細の問屋は生き残るのが難しかった。赤字続きで大きな変化が必要だとも考えていました」