創業86年の問屋をネット通販に業態転換、門外漢の工具業界に飛び込んだトップセールスマンの挑戦 結婚きっかけで跡継ぎに、従業員ゼロからの再出発
▽廃業し従業員を全員解雇。ネット通販で再出発 数十年続く祖業をつぶすことは激烈な衝撃をもたらす。古くから勤める従業員の心情を考えると、その決断の難しさは想像にたやすい。問屋業の廃業は劇薬に近いやり方だったのではないか。 「一度に大転換した訳ではありません。2002年から僕1人でネット展開を始めてました。ホームページをつくったり、楽天市場に出品したり。問屋業とネット販売の二足のわらじ状態だった時期もあります。でも周囲の理解は得られませんでした。『ネット通販なんかで採算が取れるのか』と言われたこともあります。ネット販売なら、メーカーから仕入れた製品を直接消費者に売れるので、価格を安くできる。同業者からは批判されました。それでも続けられたのは、2001年の忘年会で『これからネット通販の時代が来る』と言ってくれた友人のおかげかもしれないですね」 「問屋の廃業を意識した2006年は、赤字体質で銀行からの借入金額も大きく膨らんでいた時期でした。税理士の勧めもあって、当時社長だった先代に進言し、社員には1年頑張って黒字化できなかったら廃業すると宣言しました。結局赤字のままだったので、2007年に問屋業を廃止し、従業員を全員解雇しました。年収は約半分になるが、ネット通販事業に転換した上で再雇用すると伝えましたが、ほぼ全員が去りました。先代に『屋号だけは残してくれ』と言われたので、大都という名前は残しています」
▽商品数拡大が大当たり、DIY人気で好調なネット事業 工具の問屋がネット通販会社に変貌を遂げた。扱う商材は工具がメインで、それまでの事業と関連がなかった訳ではない。1人で始めた新事業を徐々に拡大し、業務の転換後はうなぎ上りで業績が回復した。 「大きな転換点は、2010年に中国に設立したデータセンターが軌道に乗ったことです。商品登録数を増やす戦略が当たり、売り上げが一気に拡大しました。以後、業績は右肩上がりです。問屋業をやめた2007年から、僕が経営主体になっていました。業績が回復し始めた2011年に代替わりし、42歳で3代目の社長になりました。従業員もゼロの状態からのスタートでしたが、先代は自分が社長のころから取引が続くメーカーさんなど、長年培ってきた信頼関係を残してくれました」 「DIY人気の後押しもあり、ネット通販事業は好調です。今年2月には大工や個人事業主などプロ向けの電子商取引(EC)サイト『トラノテ』を開設しました。システムエンジニアなど専門人材の採用を強化していて、2017年にはベトナムに子会社を設立し、システムの開発拠点としています。ベトナムを足掛かりにして東南アジアの市場開拓につなげる予定です。東南アジアはインフラ整備が未発達なところもあり、工具の需要は高いと見ています」