大谷翔平の可能性と課題。「動かないボール」問題をどう克服するのか?
メジャーでは、4シームでさえ微妙に動く。ナチュラルにカットしたり、シュートしたり。子供の頃から、自己流で投げてきたドミニカ共和国やベネズエラの投手らの球は特に、予測の付かない動きをする。4シームのはずなのに、捕手がポロポロこぼすようなときというのは、よく動いていると捉えていい。 ただ、メジャーではそれが当たり前であり、逆に日本のようなきれいな真っ直ぐを見慣れていない。そこにアドバンテージはないのか。ブロクストンにそう聞いたが、答えは、「ノー」だった。 「動かない球は捉えやすい。手を焼くのは、やはり手元で微妙に動く球だ」 大リーグの中では、大谷とはまるでタイプが違うものの、クレイトン・カーショウ(ドジャース)が、バックスピンの掛かったきれいな4シームを投げる。ブロクストンも、「カーショウの真っ直ぐは、動かない」と話したが、こう続けた。「彼は、ほとんど真っ直ぐを投げない。真っ直ぐに見えるのは、ほとんどがカットボールだ」。 米データサイト「BrooksBaseball.net」などで過去2年のデータを見ると、カーショウは50%近く4シームを投げたことになっているが、それらの大半はカットなのだという。ということは、カーショウも意識的に動かしているのか。 この点については、いくつか解釈が成り立つ。 その一つが錯覚だ。基本的に4シームといっても、ややシュートしている。打者はそうした軌道を見慣れており、きれいなバックスピンの掛かったシュート成分の少ない球を見ると、カットしているように感じることがあるという。それがカーショウのケースにも当てはまるのかどうかは分からないが、可能性の一つではある。 大谷の4シームに関しては、回転数に加え、縦と横の変化量が分かれば、動かないことの正体がわかるかもしれない。それはシーズンに入ってから、回転数など、目に見えない動きの分析を可能とした「Statcast」というシステムのデータを確認しなければ分からないが、厳密に言えば、大谷の球も動いているわけで、動かないように見えるのもまた錯覚。では、どの程度の数値のときに、打者は球動かないと感じるのか。それをたどることは、大谷にとっても、適応においてヒントになるのかもしれない。 ところで、ブロクストンと大谷の4シームの軌道について話している時、ビラーが加わった。 「カーショウはやっぱり、あのカーブがあるから、厄介なんだ」 比率で言えば16.3%程度(2017年)。しかし、 打者は常に意識がそこへいく。球速差は20マイル以上。大谷もデビュー戦で、1球だけ大きなカーブを投げ、難なくストライクを取った。 見逃したブレット・フィリップス(ブルワーズ)は、「あれは予期していなかった。意外だった。バランスを崩そうと思ったのかな」と話したが、メジャーでは今、緩急というよりは、同じような軌道で投げ、できるだけ打者に近いところで変化させ、打者に球種の見極めを難しくさせるピッチトンネルという概念が広まっている。 その点でも意外だったのかもしれないが、今後、大谷がどうカーブを使うのかは、興味深いところ。日本ではあまり投げなかったが、メジャーでは、フライボールバッターに速いカーブが有効ともいわれており、また、カーブを投げられる投手が決して多くないことから、重宝もされる。カウント球にもなるなら、大谷にとってそれは、“使える”球種になるかもしれない。