「自分たち若い選手が引っ張っていく」C大阪浮上の“キーマン”北野颯太の変化とは
クラブ発足30周年の今季は悲願のJ1制覇という大目標を掲げていたセレッソ大阪。序盤は快進撃を見せ、4月の時点では首位に立ったこともあった。 だが、5月には壁にぶつかり、6月に立て直したかと思われたが、7月から再びトンネルに迷い込む。8~9月が最悪の時期でまさかの4連敗。9月13日のヴィッセル神戸戦を落とした時点では、11位と2桁順位まで落ちてしまったのだ。 続く22日の湘南ベルマーレ戦。小菊昭雄監督は大胆な起用に打って出る。20歳の北野颯太をスタメンに抜擢。若い力でチームに活力を与えることを強く求めたのだ。 「負けていた8月に(西尾)隆矢君と『自分たち若い選手が引っ張っていこう』という話はしました。その頃は紅白戦でも僕らBチームの方がイケイケやった。『ひっくり返してやろう』という気迫はものすごくありました」と背番号38は言う。 クラブ生え抜きエリートもプロ3年目。しかし今季は頭から出番に恵まれず、苦悩する時間が長かったが、7月にオランダ1部のアルメレ・シティに2週間留学し、新たな刺激を得たという。 「意外とそんなにレベルは高くなかった。むしろセレッソの方が、レベルが高いなと思うくらいでしたけど、外国人選手の中ですごく揉まれた。『絶対に負けたくない』という彼らのメンタリティは日本ではなかなか味わえないものでした」と北野は神妙な面持ちで言う。 特に驚かされたのは、ミスを恐れず、突き進む貪欲な姿勢だった。 「言ってしまえば、下手という表現になるんですけど、FWだったら前を向いて仕掛けていくし、ボランチも前につけていく。そういうところが日本人と外国人の差なのかなと。消極的な選手なんていない。それが日常だということを感じられたのは大きかったです」 目の色を変えるきっかけをつかんだ北野。その変化を小菊監督も確実に感じ取ったからこそ、苦境に陥っていた時期に若武者の抜擢を決意したのだろう。 その期待に応えるように、湘南戦では前へ前へという意識を前面に押し出し、思い切ったハイプレスを見せつけた。献身的なプレーで9試合ぶりのリーグ戦勝利に貢献すると、そこから一気にスタメンを奪取。10月5日の浦和レッズ戦でも2シャドーの一角に入り、序盤から鋭い動き出しと鬼気迫る守備で相手を脅かした。 この日、特に印象的だったのが、浦和DF佐藤瑶太がGK西川周作にバックパスしようとしたところに滑り込んだ9分のシーン。うまくボールを引っかけていたら1点という惜しい形だった。 「ボール奪ってそのまま得点できれば、それが一番いい。守備のところはいいスイッチを入れるようにと監督から常に言われていますし、僕ら若い選手がチームに勢いをもたらせるようにしないといけない」と自らを鼓舞しながら、懸命にピッチを駆け回ったという。 この日のC大阪は17分にルーカス・フェルナンデスの左CKをファーから飛び込んだ為田大貴で先制点を獲得。虎の子の1点をしぶとく守り抜く戦いが続いた。北野はなかなか前へ出ていく場面を作り出せず、シュート0のまま64分でベンチに下がることになったが、「何としてもチームを勝たせたい」という熱い思いは終始、にじみ出ていた。 これで彼が先発した直近4試合は無敗。チームにも、北野自身にとっても間違いなく朗報だ。ただ、本人にしてみれば「自分のゴールで勝たせることができていない」という不完全燃焼感も少なくない。 2023年6月の神戸戦でJ1初ゴールを挙げてから1年4カ月。ここまで4点を奪っているが、2023年U-20ワールドカップで共闘したチェイス・アンリがチャンピオンズリーグに参戦し、高井幸大が日本代表デビューを果たしたのをみれば、まだまだ足りない。それは彼も痛感していることだ。 「アンリのチャンピオンズリーグデビューは率直にすごいと思いますし、世界のレベルで戦っているのを見ると、負けてられないなと思います。アンリのプレーや結果を見ていると、自分の現状を思い知らされる。まずはここで結果を残して、そういう舞台に追いつけるように頑張らないといけないですね」 確かに世界基準で見れば、20歳とはそれほど若い年齢とは言えないのかもしれない。C大阪の先輩である南野拓実がザルツブルクに赴いたのも19歳から20歳になるタイミングだった。北野もそういった成功ロードを歩むべく、ここから一気に成長曲線を引き上げていくべきだ。 172センチと小柄な分、難しさはあるかもしれないが、現在、共闘する香川真司からも盗める部分はあるはず。サッカー選手にとって最も重要な今の時期を大切にして、爆発的な飛躍を見せること。それを北野には強く望みたい。 取材・文=元川悦子
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