メルセデスのサスペンションは”動く”ぞ! 7本目のアームの正体は、セットアップの幅を広げる秘策
メルセデスF1が2024年の新車W15を発表した際に公開したレンダリング画像を詳しく見ると、レギュレーションで許されていない7本目のフロントサスペンションアームが描かれていた。 【写真】メルセデスW15、幻の7本目のアーム。フェイクじゃなかった? レギュレーションでは各ホイールは6本のアームで車体と接続されていなければならないと規定されている。フロントで言えばステアリングロッドとサスペンションロッド、そして上下のウィッシュボーン4本で合計6本ということになる。 だがW15のレンダリング画像を見ると、アッパーウィッシュボーンの後ろ側のアームが上下2本に分かれているように描写されている。この画像は、この部分に注目を集めてライバルたちの目を欺くためのものではないかと見られていた。 しかし、この画像が実際に示していたのは、今年のメルセデスのシャシーとフロントサスペンションに組み込まれた新しいシステムの手がかりだったことが判明した。 このデザインにより、チームは各サーキットでの最適なセットアップに必要な要件に合わせ、サスペンションアームの高さを動かすことができるようになっているのだ。 他のほとんどのチームも、この領域にある程度の自由度を持たせた設計をしているものの、通常それはミリメートル単位での話。しかしメルセデスのW15は数センチメートル単位でこのアームの位置を調整をすることができる。 W15のシャシー側面には大きなハッチが設けられ、異なるサスペンションアームの配置に十分なスペースを確保しているのだ。 プレシーズンテストでは、メルセデスは初日と2日目はアッパーウィッシュボーンの後ろ側のアームが高い位置に取り付けられていたが、3日目には低い位置に移動。チームはその利点を評価していた。 選択された位置によって運動学的、空力学的な反応がそれぞれ異なるだろう。またこの変更によって、アームのもう片方の位置も変わり、より前方に移動している。 テスト3日目に使用された配置では、アッパーウィッシュボーンとロワーウィッシュボーンのアームが互いにかなり接近しており、空力的により効果的になる可能性が高い。 これ自体は新しいアイデアではなく、これまでもチームは空力的な観点からサスペンションアームの表面を有効に利用する方法を検討してきた。2016年のマクラーレンのMP4-31がその例だ。 このMP4-31は、サスペンションアームがかなり近い位置に搭載されたが、調整可能なモノではなかったため、シーズンを通じてこの仕様が使われた。 しかし、W15のサスペンションは単に空力的な利点をもたらすためだけに採用されたものではない。複数のマウントポイントを設けるこの手法のもうひとつの明らかな特徴は、アンチダイブ性能の調整である。 路面との位置関係が重要となるグラウンドエフェクト・カーにおいて、サスペンションの重要性は上がっている。他チームのサスペンション配置があまり最適ではないようなサーキットでは、メルセデスがアドバンテージを手にする可能性があるのだ。 メルセデスがこのような配置のサスペンションを採用するのはW15が初めてだが、サスペンションレイアウトに関してメルセデスが既成概念にとらわれない考え方をするのは初めてではない。 実際、昨年のモナコGPでメルセデスは、W14のサスペンションを大きく変更。アッパーウィッシュボーンの前アームの取り付け位置を高くしている。 この変更は成功したとは言え、傷跡も残った。オリジナルのマウントポイントはそのまま残されていたのだ。これは明らかに重量面で不利となっていただろう。 当然、W15のサスペンションも重量という面ではデメリットがあるはずだが、チームはメリットが上回ることを望んでいる。より多くのオプションが利用可能になることで、セットアップの幅が広がり、サーキットの特性に合わせたマシンの調整が容易になるはずだ。
Matt Somerfield
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