無名ながら都知事選で15万票獲得!安野貴博氏が語るデジタル民主主義の真髄
「デリバリー」で最新のマニフェストを届ける
3つ目の「デリバリー」は、最新のマニフェストをきちんと市民に伝えること。CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー/デプロイ)と呼ばれる手法を取り入れ、ウェブサイトを自動的に更新した。 さらに、有権者からの質問に24時間回答できるようAI技術を駆使。独自に開発したアバター「AIあんの」がYouTube上で回答し続けたほか、電話とAIあんのをつなぎ、さまざまな問い合わせに対応できる環境を構築したという。 「選挙期間を通じて、AIあんのは、YouTube7400件、電話1200件で計8600件の質問に回答しました。言うまでもなく、私1人ではこれほど多くの質問に答えることはできないでしょう。私たちはこうしたツールを使うことで、市民と私、市民と候補者のコミュニケーションを拡大できたのです」
Plurality(多元性)は日本の政治を変えるのか
こうしたデジタル・テクノロジーの活用は、これまでの日本の選挙でほとんど実践されてこなかったものだと言える。 もちろん、一般的には開発者向けツールとして使われるGitHubを使い慣れている人は少なく、都内全域のあらゆる人々に安野氏の取り組みやメッセージが行き渡っていたとは言えないことも事実だろう。 しかしながら、今回の安野氏の取り組みは、これからの選挙のあり方を変えていく可能性を秘めている。 「私たちは、今回活用したブロードリスニングのシステムすべてをオープンソース化していきます。これから行われる選挙に立候補するあらゆる人々に、私たちの知識を公開していくのです。それは日本の選挙を変えていくための効果的な方法だと思っていますし、それこそがデジタル民主主義の実現につながっていくと考えています」 選挙を巡る取り組みは選挙期間中に集中してしまうため、選挙が終わると知識やノウハウが蓄積されることなく忘却されてしまいがちだ。安野氏は自身の挑戦をオープンソースソフトウェアとして広く公開していくことで、これからの選挙の在り方をも変えようとしている。 こうした挑戦の出発点となったのが、他ならぬオードリー・タン氏だったと安野氏は語る。 「オードリーさんが(経済学者のグレン・ワイル氏と上梓した)著書『Plurality: The Future of Collaborative Technology and Democracy』を読んで、私はブロードリスニングの概念を知ったのです。そして、自分自身で実践しようと考えるようになりました。この本は非常に刺激的でしたし、今日はオードリーさんに感謝をお伝えしたいです」 近年、オードリー氏やグレン氏が提唱している「Plurality(多元性)」の思想は、一つの視点や考え方だけでなく多様な視点や考え方を認め、テクノロジーと民主主義の共存を目指すものだ。 AGI(汎用人工知能)の登場によるシンギュラリティ(特異点、単一性)とは異なる未来を提示するPluralityは世界各地で広がるムーブメントとなりつつあり、その実践のひとつの形としてオードリー氏が取り組んできたデジタル民主主義にも期待が寄せられている。 安野氏の挑戦は、まさに日本でPluralityを実践するもの。それは日本の政治や選挙にどのような影響を与えていくのか。 スローニュースで現在配信中の後編では、オードリー氏と安野氏の対談の様子を伝えながら、現在のデジタル民主主義が抱える課題やこれからの広がりについて考えていく。
石神俊大