大の里（奥）は霧島の変化に動じず相手を土俵の外へ。全勝を守った（撮影・大橋純人）

大相撲秋場所10日目（17日、両国国技館）成績次第で大関昇進の可能性が浮上する関脇大の里（24）は関脇霧島（28）を寄り切り、10連勝で単独首位を守った。霧島が敗れて1敗がいなくなり、後続とは2差に広がった。両大関は琴桜（26）が豪ノ山（26）を寄り切って7勝目、豊昇龍（25）は琴勝峰（25）を押し倒して6勝目。全勝の大の里を2敗で霧島、平幕若隆景（29）、錦木（34）、高安（34）の4人が追う。 【写真】父・中村知幸さん、母・朋子さん、妹・葵さんと笑顔で記念写真におさまる大の里 行司の軍配が返る以前に、勝負の行方は見えていた。成績次第で大関昇進の可能性がある関脇大の里が、元大関の関脇霧島を威圧してたじろがせ、腰を引かせた。 「落ち着いていけた。しっかり集中できたと思う」 立ち合い。霧島が注文をつけて左へ変化。だが、下半身は崩れない。すぐに向き直り得意の右差し。今場所、武器として多用する左おっつけで圧力をかけ寄り切った。ただ一人1敗だった霧島に土をつけ、10連勝。後続と2差がついた。 大関戦を残すが、昇進に加えて歴史的快挙も添える勢いだ。1場所15日制が定着した昭和24年以降、関脇による全勝優勝は例がない。大の里は「場所が終わったわけではない。目の前の相手に集中して。先のことは考えず、頑張りたい」。 勝負審判として土俵下で弟子の白星を見た師匠の二所ノ関親方（元横綱稀勢の里）は「霧島が消極的に来たから一方的な相撲になった。霧島の作戦負け」と断じた。正攻法では勝てないと策を弄させ、注文相撲を選択させた時点で勝負あった。 場所前、部屋の稽古場で師匠が大の里に胸を出し、連続17番取る異例の光景があった。馬力で勝る弟子に対し、引退から5年半、38歳の二所ノ関親方は現役時代さながらの左おっつけで応戦。身をもっておっつけを体験させた。師匠はその効果について「それはないでしょ」と一笑に付す。 それでも、「土俵の鬼」といわれた元横綱初代若乃花が引退後に二子山親方となった当初、二所ノ関親方同様に自らもまわしを締めて稽古場に立ち、若かった実弟の元大関貴ノ花らに何番も胸を出した。「覚える気があれば、教えなくても型なんて放っておいても身につくものだ」と。師弟の交わりに打算はない。（奥村展也） ■大関昇進目安は12勝

大関昇進の目安は「直近3場所を三役で33勝以上」。三役3場所目の大の里は新小結で初優勝を飾った5月の夏場所で12勝、新関脇だった7月の名古屋場所では9勝6敗だった。12勝すれば目安の数字には到達する。昇進問題を預かる審判部の副部長で、審判長として幕内後半戦を土俵下で見守った粂川審判長（元小結琴稲妻）は「馬力とスピードで相手に相撲を取らせていない。霧島はこれまで目の前で大の里の相撲を見てきているから、ああいう（変化する）相撲を取ったのだろう」と分析した。