<北陸記者リポート>センバツ・敦賀気比 強さの秘密は? /石川
今春センバツで、大阪桐蔭と全国で2校だけの5季連続甲子園出場を果たす敦賀気比。2015年春に北陸勢初の甲子園優勝を飾るなど、全国有数の強豪校となった。なぜ敦賀気比は強いのか。その一端に迫った。【高橋隆輔】 ◇練習から緊張感 継ぐ伝統 筆者は、山田修義投手(現オリックス)を擁した08年と、吉田正尚外野手(現レッドソックス)を擁した10年にセンバツで同校の取材を担当した。離任後も動向を気にかけていると、4強入りした14年夏や、15年春の甲子園で、展開に左右されないナインの高い集中力が目についた。 例えば、大量リードの終盤でも、打者はきわどいボール球に手を出さずに淡々と四球を選ぶ。前日に満塁本塁打2本の打者が、徹底した逆方向狙いで大振りを戒めていたのも印象的だった。勢いに任せた荒いプレーは見られず、この1年で取材した県内の大会でも傾向は同じだった。 今秋では、5点差を最終盤に逆転した北信越大会準々決勝の中越(新潟)戦にその強みが表れた。同点打を放った西口友(ゆう)翔(と)選手(1年)は「ベンチに負けムードはなく、『死ぬ気でやるぞ』『人生かけろ』と強い言葉を掛け合っていた」と話す。追いつこうと焦って長打を狙い、フライを打ち上げるような淡泊な攻撃は相手を楽にする。「強いゴロを打て」との東哲平監督の指示を選手が徹底したからこその勝利だった。 東監督は「次につながらないことはさせたくない」と指導方針を説明する。トーナメントで戦う高校野球は、「負けたら終わり」。東監督は選手個々に、状況や特徴に応じた自分の役割を理解し、どんな相手や展開でも徹底することを求める。大量得点した試合で「初回のつもりで」と一言言えば、ナインはすべてを理解する。 この姿勢は、練習で培われる。4番の高見沢郁(いく)魅(み)選手(2年)は「一球に対する緊張感が高い。中学時代も試合中は感じていたが、敦賀気比は練習から違う」と話す。高見沢選手は、昨春の県大会途中に新型コロナ感染で不戦敗となると、先輩たちが「試合がない分、自分たちでプレッシャーを作ろう」と話していたのが忘れられない。日ごろのノックや打撃練習でも、平凡なミスには「その1球で負けるぞ」「試合で起きるのはこういうプレーだぞ」などと、厳しい声が飛ぶ。堅守の伊藤剛志遊撃手(同)は、キャッチボールの時からイレギュラーが起きないよう、足場を丁寧にならしていた。試合さながらの行動だが、「普通です」と平然と言い切った。 もう一点、練習で特徴的なのは、実戦への意識だ。室内練習場での打撃練習では、1球ごとに「無死一、二塁」「1死三塁」など、状況を指定して、バントやゴロ、外野フライなどその時に必要な打球を打つ。ノックでも、走者をつけて試合を意識。右打ちの東監督と左打ちのコーチ陣が交互にノッカーになり、打球の質も一定にしない。惰性でプレーすることは練習から許されていなかった。 自身も10年センバツに出場した川下竜世コーチは「うちの選手も、入ったときは他校の選手とそんなに変わりませんよ」と話す。3年間で集中力を身につけ、それが部の雰囲気を作る。「入学後に先輩の厳しい声かけを見てきた。今は自分が厳しく言わなければいけない立場だ」との浜野孝(たか)教(みち)主将(同)の自覚は、強豪の伝統がもうできあがっていることを物語っている。