過労死ライン6532人の衝撃――「ブラック霞が関」の実態と、待ったなしの働き方改革
だが、長時間労働の実態を正確に反映した残業代の支払いは、新たな財政負担につながる恐れもある。職員からは「残業そのものを減らしたい」「今のままでは体を壊してしまう」との声も聞かれる。長年の課題である長時間労働をなくすには、どうすればよいのか。
霞が関を変えるには
政府の「働き方改革実現会議」の委員も務めた相模女子大学大学院の白河桃子特任教授は、「国会議員の協力」と「省庁が抱える仕事の見直し」を挙げる。 「官僚の残業時間が増える大きな要因は、国会議員の質問通告の遅さとアナログさだと思います。委員会日程は不透明なところもありますが、日ごろから長時間労働に問題意識をもっていれば、早めに質問通告できるはずです。現にワーク・ライフバランス社のアンケートでは、同じ党でも通告が早い人と遅い人がいました。コロナ禍でも対面のやりとりを希望する事務所は少なくないし、大量の印刷業務も官僚の負担となっています。長時間労働の解消には、与野党一丸となった協力が不可欠です」
「一方、省庁側も多くの仕事を抱えてパンク状態でも、削減できないところがあります。『全部が大事な仕事です』とよく言われるのですが、新しい仕事がどんどん増えている以上、撤廃や統合、民間への委託が必要です。『これは来年度からやめましょう』『事業を統合させましょう』という決断が求められていると思います。危機管理の観点からも、職員が毎日130%の状態で仕事をするより、少し余力を残しておくことが重要なのはコロナで明らかですよね」
元財務官僚で中央省庁の改革にも携わった明治大学公共政策大学院の田中秀明教授(60)は、職員のモチベーションを上げるための提案をする。 「第2次安倍政権以降、官邸主導の政策が増え、各省庁の幹部の人事を決める内閣人事局も設置されました。社会が変動するなかで、官邸主導の迅速な意思決定は不可欠ですが、政策を最終決定する前に、効果があるのか分析や検証をすることが必要です。独断で進めれば失敗のリスクが高まるからです。官僚は各分野の専門性をさらに高めて、政府や政治家に必要なデータを提供するパートナーのような関係になることを求めたい」 「人事の任命プロセスを透明化することも必要です。内閣人事局が一方的に決めるのではなく、人事院のような中立的な機関がポストごとに複数の官僚の候補者を挙げ、内閣はその中から選ぶ。併せて公募を導入したりすれば、霞が関全体が活性化する可能性もあります」