過労死ライン6532人の衝撃――「ブラック霞が関」の実態と、待ったなしの働き方改革
山内さんは退官後、ベンチャー企業「Glocal Innovation Holdings」を立ち上げた。企業向けコンサルティングや地域振興を手がけている。千葉県いすみ市では、国の新制度を活用しながら、地域の公共交通を補うためのタクシー事業をスタートさせた。 「官僚のときにイギリス留学したことがあり、世界中から集まった仲間から『お前は個人として何ができるのか』とよく言われました。今は財務省のときにできなかった、現場の問題を解決するという仕事に正面から取り組めています。わずかながらも、事業家として自らのアイデアで社会を前に進めているという実感があります」
大学生の”霞が関離れ”
それぞれの政策分野に関する豊富な知識を持ち、国を前進させるには不可欠な存在の官僚。働くモチベーションの低下や優秀な人材の流出は、ひいては国民生活の低下にもつながりかねない。退職者に代わる新たな人材の加入が望まれるが、2020年度の国家公務員採用試験(総合職)の申込者数は2万人弱で、ピークの1996年度(4万5254人)から半分以下に減った。大学生の“霞が関離れ”が進んでいるように見える。
厚労省や環境省の働き方改革
こうした事態を重く見た省庁は、職場環境の改善に少しずつ取り組んでいる。 厚労省は昨年秋、職場改革をテーマにした職員アンケートを実施。重点的に取り組むべき22項目を選んだ。その中には「テレワークの推進・環境整備」「ペーパーレス化の徹底」「議事録作成支援(自動文字起こし)システムの導入」などが並ぶ。事務次官をトップとした「改革実行チーム」を定期的に開催し、改革の歩みを止めないようにしている。 環境省では、テレワークやWeb会議の活用に加え、ワーケーションの推進や若手のやりがい向上のための「霞が関版20%ルール」の導入などの働き方改革の戦略を、昨年8月にまとめた。
残業代がしっかり払われるように
最も大きな変化は、正規の残業代の支払いだろう。これまで霞が関ではサービス残業が横行していた。「実際にもらえる残業代は3割程度」という声も現役官僚から聞かれた。 じつは国家公務員の給与は国の予算で上限が決められており、実労働時間にあわせてすべて残業代を支払うだけの予算がない。そのため、各課の庶務担当によって少なく見積もられていた。本人もどのくらいの残業代がもらえるか、給料日当日まで分からないという。 今年1月、河野太郎・国家公務員制度担当相が「残業手当を全額支払う」と表明し、2月からは残業時間に見合った残業代がおおよそ支払われるようになった。20代のある職員は「きつい仕事をしていてもタダ働きということがあった。しっかり残業代がつくのは嬉しい」と話す。