過労死ライン6532人の衝撃――「ブラック霞が関」の実態と、待ったなしの働き方改革
経産省の元官僚で政策シンクタンク「青山社中」の朝比奈一郎筆頭代表(48)は、長時間労働に加えて、モチベーションの低下も退職の要因になっていると指摘する。 「以前は若手や課長補佐クラスが実質的な政策を考え、形にすることも多々ありました。責任は重いですが、やりがいは大きいわけです。しかし、2012年の第2次安倍政権以降は、官邸主導で政策を打ち出すことが増えた。『官邸がこう言っているから、こういう政策をまとめろ』という指示が上から降ってくるので、どうしてもその仕事をこなすだけとなってしまいます。つまり、企画立案タイプの仕事というより、執行タイプの仕事が多くなっている。そうなると、やりがいも薄れてしまわざるを得ません」
省庁で相次ぐ不祥事への対応も、気持ちを萎えさせるという。 「総務省の接待問題が論議を呼びました。こうした不祥事が発覚すると、省内の職員一人ひとりに対し、利害関係者から受けた接待の実態について細かく調べることになります。あいつはしゃべったかどうかなど、疑心暗鬼になって職場の雰囲気は悪くなります。若手がそうした作業の一部をすることもあるでしょう。せっかく、放送行政をよくする法案を作りたいと意気込んでも、幹部の飲み会の実態についてまとめさせられたり、不祥事の尻拭いのようなことをさせられたりする。やりがいを感じられず、自問自答する若手もいるでしょう」
30歳で財務省を辞めて起業
実際に霞が関を離れた元官僚は、その決断のときにどう考えていたのだろうか。 山内絢人さん(33)は東大法学部を卒業し、2011年に財務省に入省した。国際局や主計局といったエリート街道を進むも、2018年に30歳で退官した。 「社会をよくしたいと思って入省しましたが、霞が関の中で政策や制度をつくるだけでそれが実現できるのか、疑問をもつようになりました。急速に進む高齢化や過疎化などは、問題の根が深く、霞が関で予算をつけるだけでは解決できない。そこにとどまるよりも、個人で現場に飛び込み、自ら事業を行うことでこそ社会を変えられると考えました」