あなたの信じた「物語」って何ですか? 陰謀論に陥ったことのある人たちに聞いてみた 「社会への違和感」「よく分からない正義感」
「ディープステート」や「人工地震」などの陰謀論は、インターネット上の不正確な情報に依拠し、事実に基づかないものが少なくない。一方で、陰謀論は極端に脚色され、現実と虚構の境目を見えなくさせる「魅力」を持った物語でもある。 【写真】「社会への不満が強い」「論理的思考が苦手」… 陰謀論信じる人の傾向調査 23年
人々は、どういった物語に引き寄せられたのか。陰謀論に陥り、抜け出した経験のある人や、根拠のないうわさに巻き込まれた人から話を聞き、その深層を探った。(敬称略、共同通信=佐藤大介) ▽「評価されない」不満を解消 2020年の初めごろ、東京都内に住む映画監督の増山麗奈は、インターネット上に現れる文章に目を引かれた。「ハリウッド俳優や秘密組織の構成員が、若返りのために人肉を食べている」。血だらけの人の写真や動画も目にし、悪魔的な秘密組織が世界を陰で牛耳っているという「物語」を信じ込んだ。 なぜ、荒唐無稽な陰謀論と疑わなかったのか。当時、映画製作費が集まらず、途方に暮れていた。先行きが見えない不安と、社会に評価されないことへの不満。それを陰謀論は解消してくれた。 「成功している人間がとんでもない悪事を働いているという物語は、自分の抱えている困難の責任を転嫁できて、楽な気持ちになれた」
隠された「真実」を知ったという優越感も加わり、新たな情報を求めてネットにどっぷりとつかった。 1年が過ぎ、陰謀論の語る内容には矛盾が多く、それらは虚構であると考えるようになった。 「真実かどうかは関係なく、刺激を求める観客に、より過激な物語を提供する劇場型の世界を、陰謀論はつくっている」 そうした経験を基に、陰謀論をテーマにした映画を製作した。弱った心に陰謀論は「カビのように広がっていった」。自らの失敗に向き合い、その過程に迫ることが「極端な物語に依存せず、悔いなく生きること」につながると思っている。 書評家の渡辺祐真は「人間は、何かを分かりやすく伝えるときの手段として、物語を使う」と話す。物語の効用として、物事を系統立てて見られることを挙げる。だが、同時に「断片的な情報をつなげ、誤った世界観を生みだす危険性もはらんでいる」と指摘する。 陰謀論は「完成度は高くないが、面白い物語になっていて広まりやすく、理屈で対抗しても弱い」。情報の取捨選択を担っていた既存メディアの影響力が低下する中で、その隙間を無数の陰謀論が埋めていった。