オスカー・ニーマイヤーの名言「…それが建築家の戦場だ。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。世界遺産にも登録された計画都市・ブラジリアの設計に携わった建築家オスカー・ニーマイヤー。ル・コルビュジエをはじめとする近代建築の基礎を作った建築家たちとの仕事も少なくない。その晩年、104歳のときの言葉には生涯変わらぬ思いが滲んでいます。 【フォトギャラリーを見る】 都市、利便性、日々の暮らし、私たちそれぞれが生きるための場所。それが建築家の戦場だ。 この名言が現れる本『ニーマイヤー 104歳の最終講義』は、講義録ではない。イタリアの作家・編集者のアルベルト・リヴァによるインタビュー集だ。話題の中心はもちろん建築だが、いわゆる建築論に止まらず、ニーマイヤーの経験がたぶんに織り込まれている。 「都市、利便性、日々の暮らし、私たちそれぞれが生きるための場所。それが建築家の戦場だ。」という言葉も、若き日から彼が持ち続けた政治意識の賜物だ。政治的な腐敗を正したいと願いブラジル共産党へ入党したことや、そのために60年代の軍事政権下では建築を含む一切の活動が禁止された時期があったことが語られる。だから、この名言は民衆の側に立つ政治家が語るように、こう続く。「そこに陣を張り、人々の日々の生活を脅かすすべてと闘う。それが建築家の仕事だ。」 当然、ニーマイヤーが仕事に打ち込んだのは政治のためだけではない。美もまた、彼の建築の基本要素のひとつだった。ニューヨークの国際連合本部ビルをともにデザインしたル・コルビュジエとの次のようなエピソードも登場する。ちょうど20歳年上のコルビュジエだが、「『美しい人工物の創造』という共通の目標があった」と。ニーマイヤーが設計したブラジリアの議事堂の斜路をコルビュジエと上っているときに「ここには、人を自由に感じさせるという発明があるね」と言われたと嬉しそうに語っているのも面白い。 こうした細々した会話が何度も登場するが、インタビュー時のニーマイヤーは104歳。元気に長生きする秘訣は「食べすぎないこと。ちゃんとした食事をすること。一杯のワインを欠かさないこと。そして、腹八分で食卓から離れること」といたってシンプルだった。
オスカー・ニーマイヤー
1907年ブラジル生まれ。建築家。大学卒業後、後に新首都ブラジリア建築計画の総合監修者となる建築家ルシオ・コスタらの建築事務所で働く。52年、ル・コルビュジエらとニューヨークの国際連合本部ビルをデザイン。56年から60年にかけてブラジリア建設計画に参加し、大統領官邸や国会議事堂、最高裁判所などの設計を手がけた。その後、80年代半ばまで、軍事独裁政権となった故郷を離れフランスを拠点に活動。88年にプリツカー賞受賞。2012年、104歳で亡くなる。
photo_Yuki Sonoyama text_Ryota Mukai illustration_Yoshifumi T...