歌舞伎の起源は「ストリップ」⁉…伝説の踊り子を崇拝した俳優が語る、「権力」と「わいせつ芸」の意外な関係
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第49回 『「自殺しろと言うてるようなもん」…伝説のストリッパーについに下された悲惨すぎる「判決」』より続く
判決への不満の声
実刑判決に対し、各方面から抗議の声が上がった。当時の雑誌には、彼女と親しかった文化人や著名人の不満の声が紹介されている。 一条の舞台を見た経験もある作家の田中小実昌はこう述べた。 「エライ人ってのは、どうして“見せしめ”のためとか、日本のためとか考えるんでしょうかね。そりゃ政治のやることですよ。裁判官がそんなこと考えちゃいけませんや。法なんて絶対のものじゃないでしょ、それとも被告が悪うございましたとあやまれば法に従った態度になるんですかね」 確かに田中が言うとおり、法は絶対ではない。その解釈は時代によって変わる。
「裁判官は勇気がなかった」
日活ロマンポルノ『一条さゆり 濡れた欲情』で共演した白川和子も判決に憤っていた。 「悔しくてたまりません。こんな判決が出るなんて時代錯誤もはなはだしいと思います。ロマンポルノも最初は白い目で見られていた。でも、だんだん理解者が増えて、今では好意的に受け止められています。そういう社会的な風潮に対して、向こうは意地でもやっつけてやろうと思っているのじゃないかしら」 証人として出廷し、一条の芸はわいせつではないと主張した駒田は、自分の書いた小説によって、彼女が実刑になった面もあると感じていた。 「せめて罰金刑にしてほしかった。無罪は無理としても実刑はひどすぎますよ。裁判官は勇気がなかったんだろうね」 ルポライターの竹中労は雑誌『展望』で、権力が一条を取り締まる理由をこう説明している。 〈庶民の自由な表現を放任しておけば、必ずアナーキーな反体制の風潮が社会にひろがって、国家の存立を脅かす事態をまねくからである〉