「中小企業も賃上げを」の大合唱…でも現場では「きれいごと」と突き放す声 6割がコスト増の「価格転嫁が不十分」と回答、大企業との賃金格差広がる
大企業の高水準の賃上げが連日報道されているが、サプライチェーン全体は給与アップの波に乗り切れていない。「部品メーカーは本当に厳しい経営環境だ。価格転嫁を進めてほしい」と語気を強める。 ▽大手と中小の賃金差額は23年間で最大3倍に 中小企業の賃金停滞は、過去数十年のデフレ経済下で放置され続けてきた大きな問題だ。中小製造業が中心の産業別労働組合「JAM」が集計したデータから、リアルな実態が読み取れる。 JAMは組合員数300人未満の会社と、1000人以上の会社について、月額所定内賃金の平均値を比較した。高卒後すぐに就職した30歳の場合、2000年では差額が9307円だったが、2023年には2万9184円へと3・1倍に広がった。 25歳や35歳でも同様の傾向だった。50歳では30歳ほどの差はないが、300人未満の企業の場合は月当たりの賃金自体が23年前から1万8000円ほど減った。JAMの担当者は「賃金カーブが右肩上がりにならず伸びなかった」と分析する。デフレ経済下で、中小の下請け代金には「買いたたきが続いた」とも指摘する。
▽賃上げを予定する中小企業の過半は業績低調 日本商工会議所の調査では、2024年度に賃上げを予定する中小企業は61・3%と前年度から3・1ポイント増えた。だが賃上げ予定企業の経営状態を見ると、業績は低調だが賃上げするとの回答が過半を占めており、内情は厳しい。 価格転嫁の実現が収益改善の鍵を握る中、産業別労働組合「UAゼンセン」の製造産業部門が2024年1月までに労働組合に対して行ったアンケートでは、6割が「価格転嫁は進展したが不十分」と回答した。コスト別では、人件費の一部である労務費は36%が転嫁を全くできていなかったと答え、上乗せの難しさが際立つ。原材料費分は15%、水道光熱費も17%が転嫁できなかった。 法政大の山田久教授(労働経済)は「大手を中心に賃上げの流れが定着してきたが、中小への広がりは不十分だ」と指摘する。政府は、価格転嫁の後押しに加え「企業同士で人材育成の仕組みを共有するなど、連携を促す政策を講じ、中小の生産性を高めることが必要だ」と強調した。