「ダメなら心残りなく引退できる」再起をかけた全日本歌謡選手権 失神バンド解散後のソロ挫折 まさかの紅白落選 真木ひでとさんインタビュー
山口洋子さんが新しい芸名を命名
ーーここから「真木ひでと」としての新しい歌手人生が始まるわけですね。 ひでと:はい、10週勝ち抜いた夜、審査員で僕のプロデューサー的存在になる山口洋子さんに新しい芸名を命名してもらいました。実は初め「牧ひでと」という字だったんだけど、所属事務所が五木ひろしさんのいる野口プロモーションに決まったことで「五木さんの一字を使わせていただきたい」と「真木ひでと」になったんです。 ーー再デビュー曲『夢よもういちど』はどのように出来たのでしょうか? ひでと:SONYのオーディションを受けた時に、浜圭介さんや山口洋子さんの前でギター一本でいろんな曲を歌わされたんです。なかなかピンと来るものがなかったようなんだけど、ポール・アンカの『君は我が運命』を歌った時に浜さんが「それだ!」と。その後、僕のデビューレコードを作るにあたり候補曲が5曲できて、どれに決まってもタイトルは『夢よもう一度』にすると言われたけど、結局『君は我が運命』によく似たこの曲になったというわけ(笑)。 とは言うものの、レコーディングの段階で「こうしたほうがもっといいんじゃないか」とメロディーにはどんどん変更が加えられていきました。作家、プロデューサー、スタッフ、僕を囲む全ての人から本気を感じました。元々はB面の曲だったはずが、発売直前に入れ替わりでA面に。結果、ランキングの9位まで上昇するヒット曲になりました。オックス時代以来のベスト10入りができ嬉しかったですね。
NHKの怒りを買いまさかの紅白落選
ーー続く『恋におぼれて』や『東京のどこかに』もスマッシュヒット。演歌歌手としての地位を確立されますが、1978年には一転、柳ジョージ&レイニーウッドとのコラボレーションでロック調のシングル『カモン』を出されています。 ひでと:あれはディスコブームもあったし、柳ジョージさんたちと遊びのつもりで出した曲です。いい曲に仕上がったと思うんだけど、そうこうしてるうちに内田裕也さんから「ニューイヤー・ロック・フェスティバル」に呼ばれて、事務所も巻き込んで僕をロック歌手にしようという動きが始まったんですよ。立て続けにロック調の曲を3曲レコーディングさせられて、完パケの状態までいったんだけど僕は嫌だった。曲も好きな感じじゃなかったし、なによりここでロックに戻ってしまったら何のために全日本歌謡選手権に出たかわからない。 なんとかやめさせようと事務所の出版部にいい演歌の曲のストックはないか聞いて、仮録音したものを編成会議にかけたところ「やっぱり真木くんは演歌がいいね」となりました。それが8枚目の『雨の東京』。ロック調の曲はお蔵入りになって事務所には無駄遣いさせてしまったけど、結果的に良かったと思います。 ーー『雨の東京』がそんな経緯で発売されたとは驚きです。 ひでと:山口さんや事務所の野口修社長には「まだこの曲は早すぎる」と大反対されたんですけどね。特に社長は「こんな曲が売れるなら事務所の前の坂道を逆立ちして歩いてやる」なんて言うほどで(笑)。でもそういう反対があったから僕やスタッフの気持ちに火が点きました。マイクロバスで全国をキャンペーンで繰り返し周って、豊橋(愛知県)では過労で倒れるほど。ランキングは最高40位くらいなんですけど、それを1年半ほどキープするロングヒットになりました。野口社長に「逆立ちしてくださいよ」って言いに行ったら「金一封やるからそんなこと言うなよ(笑)」と流されてしましましたけど(笑)。 ーーご自身の手で代表的ヒットを勝ち取ったというわけですね。 ひでと:『NHK紅白歌合戦』も当確だと言われていたんですよ。元々、年末はコンサートをするはずだったのを、スケジュールを白紙にして発表を待っていました。なのに「落選しました」。悔しかったですね。後からわかったことなんだけど、レコード会社のNHK担当のミスでNHKの番組を飛ばしちゃって、お怒りを買ってしまったそうなんです。後年、野口プロから独立した時に新しい担当がNHKに売り込みに行くと「真木は以前、番組を飛ばしたから出せない」と言われて、記憶になかったので直接お話に行って初めて事情がわかりました。NHKとは関係修復できましたが、大きな組織の中にいるとこんなトラブルが起こっていても本人がなかなか把握できない。怖いなと思いましたね。 ◇ ◇ 真木ひでと(まき・ひでと)プロフィール 1950年、福岡県田川市生まれ。1968年、オックスのボーカル・野口ヒデトとしてデビュー。『ガール・フレンド』、『スワンの涙』などのヒット曲を連発し、グループサウンズブームの一翼を担う。1971年ソロデビュー。1975年「全日本歌謡選手権」で10週勝ち抜き、『夢よもういちど』で演歌歌手として再デビュー。以降も数々のヒット曲を発表している。2020年、70歳を記念してオックス時代から最新録音まで全111曲を収録した5枚組CD集『陶酔・心酔・ひでと節!』をリリース。 (まいどなニュース特約・中将 タカノリ)
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