三菱UFJ行員、貸金庫から「十数億円」窃盗の衝撃 銀行に「顧客の言い値」で全額補償する責任あるか?
三菱UFJ銀行の2支店で、貸金庫の管理担当者だった行員が顧客の貸金庫から資産十数億円相当を盗んでいた問題が11月22日に公表された。 発表によると、東京都内の練馬と玉川の2支店で2020年4月~2024年10月までの約4年半、鍵を不正に持ち出して、顧客約60人の貸金庫から現金や貴金属などを盗んでいたという。顧客からの指摘で発覚したようだ。元行員は盗んだことを認め、すでに懲戒解雇されている。 同行は、「貸金庫は、お客さまに無断で開扉することができないよう、厳格な管理ルールを定めており、第三者による定期チェックの仕組みも導入しておりましたが、未然防止に至りませんでした」と説明。元行員の供述に基づき、顧客による被害確認を求め、「今後、真摯に補償を実施してまいります」としている。 被害が巨額にもかかわらず、元行員が立件されるなどの動きはまだないようだが、刑事責任はどうなるのだろうか。また、一般的には銀行側も把握していないとされる貸金庫内の資産の補償はどう進められるのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。
●もし起訴されたら「被害弁償できなければ、実刑判決の可能性高い」
──今回のケースはどんな犯罪に該当する可能性がありますか。 「業務上横領罪」か「窃盗罪」の成否が問題となりますが、おそらく窃盗罪に該当するものと思われます。 銀行員の犯罪というと横領をイメージすると思うのですが、業務上横領罪は業務上他人の物を占有する者が委託者(顧客)との委託信任関係に違背して対象物を着服・領得することによって成立します。業務上横領罪の主体は他人の物を占有する占有者でなければなりません。 たとえば、銀行であれば、支店長やこれに準じる高い役職の者が占有者ということになります。ですので、銀行の支店長が貸金庫の中身を着服すれば業務上横領罪が成立します。 これに対して、一般の行員は占有者である銀行支店長の占有を機械的に補助する占有補助者にすぎないことから、貸金庫の中身に対する刑法上の占有は有していないということになります。 そうすると占有を有していない一般行員が銀行支店長の占有にかかる貸金庫の中身を盗った場合は、業務上横領罪ではなく、窃盗罪が成立します。 本件の元行員については支店における役職等が不明なので断定はできませんが、一般行員ということであれば、業務上横領罪ではなく窃盗罪が成立すると思われます。 ──元行員は事実を認め懲戒解雇されているにもかかわらず、立件されたといった動きはいまだ報じられていません。 被害金額が多額で社会的影響も大きい事件ですから、立件されないということはないと思います。 このようなケースは既に過去に起きてしまった犯罪なので「現行犯逮捕」はできませんし、「緊急逮捕」も現実的ではありません。裁判所に令状請求して令状を発付してもらう「通常逮捕」ということになります。 その場合、まず、窃盗の被害の日時、場所、行為態様、被害品、被害金額を明らかにする必要があるでしょう。 被害者に事情聴取をおこない被害品を特定する必要がありますし、銀行のセキュリティデータや防犯カメラ等により被疑者が金庫室に出入りして盗んだ日時の特定も必要です。貸金庫の実況見分もおこなう必要もあるでしょう。 さらに場合によっては被疑者を任意で取り調べて事実関係について詳細に聴取することもありえます。 これらの任意捜査をおこなって供述調書や実況見分調書、捜査報告書などの関係資料を作成した上での逮捕状の請求ということになるので、それなりに時間がかかるのは致し方ないと思います。 仮に事件化されて逮捕・起訴となった場合、被害金額を弁償することができなければ、執行猶予なしの実刑判決となる可能性が高いと思われます。